農研機構で開発中のゲノム編集イネ。10月上旬の様子(農業・食品産業技術総合研究機構にて筆者撮影、以下同)

「日本初、ゲノム編集イネの野外栽培」遺伝子組み換えとどこが違う?

現場に張られた青いネットの意味は…?

品種改良でよりよい食材を生み出す。こうした「育種」の歴史はゲノム編集技術の実用化で新たなステージに入った。ゲノム編集の最前線を報告した前回記事に続き、今回は日本で初めて「ゲノム編集イネ」が栽培されている現場を直撃する──。

たわわに実った稲が頭を下げて、みっちりと田んぼを埋め尽くしている。

よく見ると、一粒一粒がぷっくりしていて、炊きあがりを想像すると、思わず口角が上がってしまう。

水面に目を落とすと、稲が束になって生えている。重たげな頭を支えるその足元は力強く、勢いがある。

ただ見慣れないのは、この立派な水田が、青いネットで完全に覆われているということだ。

ここは、茨城県つくば市にある農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)の高機能隔離圃場。青いネットは鳥による持ち出しや、強風を抑える目的で設置されている。

高機能隔離圃場で栽培されているイネの様子高機能隔離圃場で栽培されているイネの様子

農研機構では、ゲノム編集技術による改変イネの国内初となる野外栽培が行われ、今年で2年目の収穫を迎えた。

このゲノム編集イネの目的は、収穫量(収量)の向上だ。昨今の日本では、地方のブランド米を目指した、より美味しく、より育てやすい品質ベースの品種改良が進むなか、なぜ「収量」なのか。そして、なぜ「ゲノム編集」なのか。

30年後の危機を未然に防ぐ

2050年までに、世界の人口は90億人を超え、現在の1.5倍の食料が必要になると見込まれている。世界的な食料危機が叫ばれる一方、日本ではフードロスが問題になっている。

特に、家庭から出た食品廃棄物は、リサイクル率も低く、食べられるはずのものが多く捨てられている。

2015年度推計値によると、食品廃棄物の出所は、事業系廃棄物が2010万トン、家庭系廃棄物が832万トン。事業系廃棄物の約8割は飼料などにリサイクルされている。一方、家庭系廃棄物の4割近くは可食部(フードロス)とみられているが、全体の9割が焼却・埋め立て処分されている。

こうしたデータは、食料問題が多くの日本人にとって遠いものであることを裏付けているようにも思える。

この「飽食の国・日本」はいつまで続くだろうか。

人口減少、高齢化により農業の担い手は減り、耕作放棄地が増えている。また、異常気象は、地域や国に関係なく襲ってくる。

農業は、天候との戦いでもあるが、その戦いが年々厳しいものになっていることは、台風が来るたび乱高下する野菜の価格からも感じ取れる。

こうした世界的な食料事情、国内の農業事情の両方を解決すべく、より効率的な品種改良(育種)の手段として、ゲノム編集技術を利用しようという動きが加速している。