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不倫で「社会的に死んだ乙武君」は、空白の2年半をどう生きていたか

本人に聞いた

もの書きで再スタートしたい

―デビュー作『五体不満足』の刊行が'98年。以来、メディアを中心に活動してきた乙武さんですが、2年半前に発覚した不倫スキャンダルが原因となり、表舞台から姿を消していました。空白期間はどのように過ごしていたのですか。

肩書こそ転々としましたが、活動の根幹にあるのは「どんな境遇の人でも平等なチャンスが与えられる社会を実現したい」という思い、ただひとつです。

そのために尽力してきましたが、ある意味で「社会的な死」を迎えてしまった。身から出た錆ではありますが、とつぜん人生の目的を失った虚無感に苛まれ、1年間は自宅でぼんやりと過ごしていました。

 

活力が湧いてきた昨年は海外を放浪していました。バリアフリーが進み、人種差別も少ないメルボルンを訪れた際には、この地に移住しようとも思った。ですが、最終的に選んだのは帰国という選択。

残りの人生を快適な環境で過ごせるのは幸せなことですが、私はもともと困難とともに生まれてきた人間なので、物足りなさを覚えたのです。

―なぜ、再始動の舞台を小説にしたのですか。

私は文章で世に出た人間なので、ものを書くことで再スタートしたかった。エッセイのような乙武洋匡が前面に出る形だと、伝えたいメッセージがあっても感情移入してもらうのが難しい状況にあります。

私から距離を置けるフィクションのほうが読んでいただけるのではないかと考えました。

―『車輪の上』は、ひょんなことからホストとなった車椅子の青年が、障害者というレッテルに振り回されながらもさまざまな境遇にある人々と交流し、成長していく物語です。まずタイトルがとても目を引きますね。

ご想像のようにヘルマン・ヘッセの『車輪の下』をもじりました。この作品の主人公は、誰もが認める天才で周囲の期待を一身に集めていましたが、次第に心身のバランスを崩していく。いわば、他人に貼られた“レッテル”に苦しみ、破滅していく人物です。

一方、今作のテーマも、さまざまなレッテルに苦しむ人々の姿を描くことでした。主人公が車輪の上にいることだけでなく、内容的にもピッタリだと思いました。

―なぜ、物語の舞台にホストクラブを選んだのでしょうか。

私の親友がホストクラブを経営しており、その縁で若いホストとの交流を持ちました。親友のバースデーイベントの際には、賑やかしで接客したこともあります(笑)。

ホストといえば華やかな世界で生きているイメージが強いかもしれませんが、身の上話を聞くと、生い立ちや境遇などで苦労し、重いものを背負いながら夜の世界で必死に生きている方が多い。

私は一般的な家庭で育ちましたが、姿形が普通とは異なっていた。お互いに、生い立ちや姿に普通と違っている部分をもっているからこそ、「それでも楽しく生きていけるんだ」というところで共感し合えたのです。作品のテーマを決めたとき、真っ先に顔が浮かんだのが彼らでした。