遺伝子組み換えとどこが違う? 食卓を魅力的に変える「ゲノム編集」

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堀川 晃菜 プロフィール

ゲノム編集には3つのパターンがある

CRISPR-Cas9を用いたゲノム編集の主なツールは2つ。「ガイド」と「ハサミ」です。

「ガイド」は、遺伝子が並ぶDNA上で、変異させたい部分へと「ハサミ」を的確に導きます。ガイド役を務めるのはRNAという核酸物質です。

そして「ハサミ」は、ガイドに指定された場所でDNAの二本鎖を切ります。ハサミの本体はDNAを切断する「制限酵素」です。これは元々、細菌がウイルスなどの侵入者のDNAを切断するために兼ね備えている、いわば武器で、DNA上の限られた部位を切ることから“制限”酵素と呼ばれています。

ゲノム編集では、これを利用して、目的とする場所で切れるようにしています。

そして肝心なのは、“DNAを切った後”です。生物には本来、放射線や紫外線などのダメージによりDNAが切れてしまった際に、それを修復する仕組みがあります。ところが、この際に修復ミスが起こり、遺伝情報をコードする塩基の並び方が変わってしまうことがあります(突然変異)。

この“エラー”も含めてDNA修復の仕組みを巧みに利用しているのがゲノム編集です。ゲノム編集はDNA切断後の過程によって、大きく3つに分類されます。

ゲノム編集技術の分類を示した図ゲノム編集技術の分類を示した図(画像提供:農研機構・小松晃氏)

〇パターン1(SDN-1):再結合の際に、一部の塩基がとれる「欠失」、新たに加わる「挿入」、別の塩基と入れ替わる「置換」のいずれかが細胞内で発生。

〇パターン2(SDN-2):ゲノム編集ツールとともにあらかじめ細胞外で「DNA断片」を仕込んでおく。この断片は、狙っている部位(標的配列)近辺と基本的には同じ塩基配列で、その中の一部に変異(欠失・挿入・置換)が含まれている。切断後に修復される際、この断片がうまく取り込まれることで、変異を導入する。

〇パターン3(SDN-3):パターン2と同様のアプローチで遺伝子を導入する。

※パターン1,2,3は、正式にはSDN-1、SDN-2、SDN-3と呼ばれます(SDN: Site-Directed nuclease;部位特異的DNA切断酵素)。

遺伝子組み換えとの違いはどこか?

勘の良い方はすでにお気づきかもしれませんが、ゲノム編集には従来の遺伝子組み換えと「同じ」部分と「異なる」部分の両面があります。

遺伝子組み換えでは、作物に新たな機能を持たせるために、外来の遺伝子を導入し、ゲノム上に組み込む必要があります(同種内の交配では得られない形質を付与したい場合は他生物の有用な遺伝子を導入します。たとえば「青いバラ」や除草剤耐性のある作物など)。この点は、ゲノム編集のSDN-3にも該当します。

しかしゲノム編集の目的が、ある遺伝子に変異を導入し、その機能を損失させることならばSDN-1で十分です。この場合、変異させる部位を指定すること以外は人為的でなく、欠失・挿入・置換のどれが起こるかは細胞のみぞ知ることです。

そして、この場合はゲノム編集を行うために一時的に外から「ハサミ」の遺伝子を入れたとしても、その遺伝子をゲノム上に残す必要はありません。

そのため、結果だけ見れば、細胞内で自然に起こりうる変異と区別できないのです。

SDN-1以外を行う必要性が生じるときは、たとえば遺伝子の機能を壊すだけでなく、逆に活性化させたいときはSDN-2、(外来かどうかによらず)遺伝子を導入したい場合はSDN-3、といった使い分けになります。

小松氏によると、植物の分野へのSDN-2や3も研究レベルでは行われているものの、育種技術として現在、実用的な効率レベルに達しているのはSDN-1が中心です。