遺伝子組み換えとどこが違う? 食卓を魅力的に変える「ゲノム編集」

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堀川 晃菜 プロフィール

ゲノム編集作物にリスクはないのか?

では、農業分野において、品種改良のツールとしてゲノム編集を用いることに対し、そのリスクはどのように考えられているのでしょうか。

動物を対象とするゲノム編集は、技術的には受精卵に直接用いることも可能です。そのため、ヒトにおいては遺伝病などの治療に期待がかかる一方、遺伝子改変の結果が次世代へと受け継がれていくことや、命の萌芽に手を加えることに対する倫理的な問題が議論の的となっています。

「作物におけるゲノム編集を用いた育種のリスクは、従来の突然変異育種のリスクを越えるものでも、下回るものでもないと考えています。

その理由は、ゲノム編集の結果が、使い方によっては『自然に起こりうる変異と同等』とみなせることにあります」

そう話すのは、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)でゲノム編集イネの開発を進める小松晃上級研究員です。

では、従来の育種と具体的にはどこが違うのでしょうか。そして、なぜ人為的に改変をしても、自然に起こりうる変異と同じと言えるのでしょうか?

突然変異を“運まかせ”にしない

これまでの育種の主流は大きく2つあります。

・自然に生じた突然変異体から良いものを選ぶ、または放射線や重イオンビームの照射、薬剤により突然変異を誘発し、その中から良いものを選抜する「突然変異育種」 

・突然変異等により特徴を持ったもの同士を掛け合わせて雑種をつくり、目的に合うものを選抜していく「交雑育種」

こうした従来の突然変異を導入する技術では、ゲノム上のどこに変異が起きるのかは分かりません。変異を入れる場所を正確にコントロールすることが難しく、なかなか狙い通りにいかないことが課題でした。

90年代後半に登場したゲノム編集は、ほぼ確実に、ピンポイントで狙った遺伝子上に変異を入れることができます。運まかせだった突然変異を「計画的に起こす」ことが可能となったことで、正確さや効率性が飛躍的に高まりました。

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ゲノム編集にはいくつかの手法がありますが、特に2013年にCRISPR-Cas9(クリスパー・キャス技術)が登場すると、実験操作がとても簡便になり、対象とする生物種が大幅に拡大し、ゲノム編集は研究者の間でまたたく間に広がりました。