ノムさんの告白「沙知代よ、君がいない毎日は本当につまらなくて」

あれから一年。いま、思うこと
週刊現代 プロフィール

もうやり尽くした。でも…

先日、雑誌の企画で、夫の三浦朱門さんに先立たれた作家の曽野綾子さんと対談した。

「ふと青い空に夫の視線を感じることや、夫の声が聞こえると思うときがあるんです」

曽野さんはそう言っていた。私も、折に触れて沙知代の顔や、言葉を思い出す。

夫婦って本当に何なのだろう。当然、二人そろって初めて夫婦なわけだが、独りになって、そんなことを考える。

沙知代が亡くなる日、昼頃に私が目を覚ますと、彼女が言った。

「左手を出して。手を握って」

今までの人生、彼女からそんなふうに言われたことは一度もなかった。私は黙って、そっと手首を握ってやった。

あのとき、沙知代は何を思っていたのか。いまとなってはもうわからない。

 

私たちは性格も、考え方も正反対だった。けれども、長く一緒に生きるうちに、すべてが溶け合っていた。私たちは二人で一人だった。

そんな「身体の半分」を失ってもうすぐ1年になる。私はこれから、いったい何を楽しみに生きていけばいいのか。

「これからも元気で、球界のためにボヤき続けてください」

仕事で会う人は、そんなことを言ってくれる。ありがたいことだが、私にできることは、もうやり尽くした。いつお迎えが来ても悔いはない。

いま残されている楽しみといえば、食べることぐらい。83歳、これ以上長生きするために健康に気を遣う必要なんてないだろう。好きなときに、好きなものを食べている。

先のことは考えない。仕事の予定を前日の夜に聞いたら、あとはそれを精一杯こなすだけだ。

そして夜、独りの家に帰ってきて、妻の位牌に語りかける。

「サッチー、君がいない毎日は、本当につまらないよ」

こんなボヤきを聞いて、彼女はどう応えるか。それは、なんとなくわかる気がする。

「大丈夫。なんとかなるわよ」

そうだよな、あとちょっと、生きてみようか。

「週刊現代」2018年11月10日号より