水産業界「戦後最大の改革」と、ニッポンの漁業「哀しき現状」

ついに「漁協の核」にメスが入る
松岡 久蔵 プロフィール

「改革派次官」への反感

養殖業に国内水産業の活路を見いだす今回の改革法案の成立には、常に「実効性が薄い」との批判がつきまとった。

今回の法案は、農林水産省きっての「規制改革派」で鳴る奥原正明前事務次官主導で進められた。

奥原氏は、経営局長時代に安倍晋三首相が「岩盤規制」と位置づけた農業協同組合(JA)改革を担当。菅義偉官房長官による異例の人事で、2016年に次官に就任した。

水産業は全国農業協同組合中央会(JA全中)のような中核組織もなく、信用事業の規模も格段に小さい。水産族の自民議員からは「漁協や企業からの陳情がなく、切り込むところもあまりない」「規制改革推進会議のための、支持率獲得を狙ったごまかしの議論だ」と、当初から改革を疑問視する声も上がっていた。

実際、全国の漁協から強い反発が予想されたためか、示された改正案は、既存業者の漁場の継続利用を明記するなど、譲歩をうかがわせるものとなった。

「農協改革で出世の味を占めて、次は水産改革の成果を官邸にアピールし、異例の任期3年というわけだ」(自民議員)などと皮肉られていた奥原氏。「思惑」とは別に7月末で次官を退任したが、顧問として法案策定には最後まで影響力を発揮した。

 

不十分だった水産庁の「根回し」

さらに、今国会での法案提出には「拙速」との批判も上がっていた。

農林水産省は昨年11月、政府の規制改革推進会議で法案の方向性を提示。今年5月末に水産庁が骨子をまとめ、6月に政府が正式に漁業法などの関連法を目指す方針を決めた。

全国の漁業者の説得や改正部分の説明のため、来年の通常国会での法案提出が妥当との見方が関係者の間で共有されていただけに、今国会での法案提出は「スケジュール的に無理がある」(自民議員)と懸念する声もあった。

実際に、自民党の提出法案の事前審査機関である政務調査会に提出する際、水産庁からの根回しが不十分で、一部の水産族議員の反発を買った。いかに水産庁に時間的な余裕がなかったかを物語る話だ。

法案の国会審議でも、野党議員から「拙速」「法案の中身があいまいで現場の人に届いていない」との批判が上がるなど、順調には進まなかった。外国人材法案での与野党対立のあおりを受け、主要野党が与党の国会運営に抗議して審議を欠席する場面も見られた。

様々な批判や制約の中で成立した水産改革法案だが、裏付けとなる予算の獲得に注目が集まった。

農林水産省は10月、2019年度予算の概算要求案を自民党に提示し、水産関連の予算として前年の約1.7倍となる3003億円を要求した。

今回の水産改革の目玉となる沿岸漁業については「競争力強化」の名目で、共同利用施設の整備などのために308億円を完全新規の予算として盛り込んでいる。そのほかにも、マグロなど沖合・遠洋漁業に使う高性能な大型漁船の導入は102億円と、18年度当初予算と比べ2倍。

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さらに、資源管理に伴い減収となる漁業者への経営安定対策でも2.4倍の527億円を要求。日本近海での外国漁船の違法操業対策費も、取締船を新造するなど2.3倍の336億円に引き上げている。