「一人暮らしをしていた84歳の父親から狼狽した声で電話があったんです。『銀行にいる。キャッシュカードの暗証番号が思い出せない』って。書き残していないし、思いつく数字をいくつか試してもダメだったと」
埼玉県在住の65歳自営業男性Aさんはそう語る。後日、Aさんの父親は軽度の認知症と診断された。長男のAさんが同居して面倒をみていたが、半年が限界だった。
「父には200万円の定期預金があったので、それを解約して施設に入所する費用にするつもりでした。でも私が父の通帳と印鑑を持って、銀行に行ったところ、窓口の職員は『ご本人でないと手続きはできません』の一点張り。
私は父の保険証や自分の免許証も見せましたが、埒が明かない。父を連れてくれば、『俺のカネをどうするんだ』と怒り出すのは目に見えています。私は何もできず銀行を後にしました」
キャッシュカードの暗証番号がわからないと、「子どもであろうとも、親の口座からお金はおろせない」
よくそう言われる。だが、認知症になった親の医療費や介護費用を捻出するために、至急でお金が必要な場合は簡単に諦めてはいけない。
『認知症の親と成年後見人』の著者で、自身も認知症となった父親の介護をしているライターの永峰英太郎氏はこう語る。
「私は父親の口座から現金を引き出すことができました。まず私が用意したものは、父親の通帳、届出印、キャッシュカード。
次に父親が認知症であることを示す診断書と要介護認定証、自分が子どもであることを証明する住民票、さらにお金が必要な理由を箇条書きに記した文書も揃えました。
それを持参して父の口座がある銀行の支店で、担当の課長と面談。直談判したところ、『私の責任で了解しました』と言われ、200万円をおろすことができたんです」