認知症の薬は、使い方を誤ると怖い「副作用」を引き起こす

後悔する前に知っておきたいこと
上村 悦子 プロフィール

激しい頭痛と物忘れをきっかけに発覚した「若年性アルツハイマー病」

Aさんの母とは対照的に、薬に助けられたのが鳥取県に住む藤田和子さんだ。藤田さんは45歳の時に「若年性アルツハイマー病」の診断を受けた、若年性認知症の当事者である。藤田さんが体に深刻な不調を感じたのは、2007年3月のことだった。

「何かで頭を殴られたような激しい痛みで、夜中に目を覚ましたんです。それ以降、スーパーなどの広い場所に行くと、たびたびめまいがするようになりました」

記憶障害の兆候も出はじめた。

「自分用に買ったコーヒーゼリーを朝食べたのに、夜になってまた食べようとしたんです。冷蔵庫を開けて『コーヒーゼリー、誰か食べた?』と娘たちに聞いて、驚かれました」

【写真】朝食べたゼリーを忘れて夜になってまた食べようとした。
  朝食べたコーヒーゼリーを夜になってまた食べようとして、自分の記憶に疑いが生じた photo by gettyimages

総合病院を受診したところ、医師から「若年性アルツハイマー病だと思われる」と告げられ、加えて「薬としてはアリセプトしかありませんが、飲みますか?」と問われた。当時、看護師として働いていた藤田さんは、薬の名前から病名が周囲に知られるかもしれないと不安になり、このときは服薬を断ったという。

しかし、受診したからといって症状が収まるはずもなく、日常の中で困ることが増えていった。たとえば以下のような出来事に見舞われるようになったのだ。

  • 簡単な漢字が書けない
  • 勤務先の患者さんの名前を忘れてしまう
  • 献立を立てて買い物に行っても、何を買うのかを忘れてしまう
  • 複数の調理器具を並行して使うことができなくなり、料理がおぼつかない
  • 一日の予定を記憶するのが困難になり、さらに日時や曜日もはっきりわからなくなる

毎日が混乱状態。ついに「仕事は無理だ」と判断し、2008年3月に自ら病院に辞表を提出した。事ここに至って、

〈服薬していたら何とかなったのではないか。もう薬を飲むべきだ〉

こう考えた藤田さんは、再び総合病院を訪れる。しかし医師は、「こんなにしっかりしているのに」「今から薬を飲んで、どうするんですか!」と叱咤するばかり。薬は処方してもらえなかった。

やむなく、勤めていた病院の医師にアルツハイマー病の専門医を紹介してもらったという。

「頭のなかの靄(もや)がはれた!」

専門医のもとでさまざまな検査を受けた藤田さんは、正式に「若年性アルツハイマー病」と診断された。この専門医が、現在の藤田さんの主治医だ。

「主治医から『薬は進行を遅らせることしかできないが、今も研究は進んでいる。いい状態が保てるよう一緒に頑張りましょう』と告げられ、初めてホッとできました」

さっそく7月から、アリセプトを服用することになった。この薬は3mgから始めるのが普通だが、主治医の判断で最初はごく少量が処方され、およそ2ヵ月後わずかに増量された。

薬の効果は大きかった。それまでは脳全体に靄(もや)がかかったようだったが、増量後は少し晴れたような感じになり、生活がしやすくなったという。

そして発症から11年。今も2ヵ月半に1度の通院と、年に1回の脳検査を欠かさない。
薬の量は精妙に調整され、現在はアリセプト10mgとメマリー20mg。多少の不便はあるが、自立した生活を続けている。

【写真】薬の小効果は大きかった
  薬の効果は大きかった。多少の不便はあるが、自立した生活を続けている photo by gettyimages