これまでいろいろな本を読んではきたけれど、改めて、新書にとってオビとはどんな役割を果たしているのかなんて、深く考えたことがなかった。
実際の編集者に話を聞いてみると、多くの読者に届けるために、見えない所で工夫や努力が行われていることが私、ナナにはわかってきた。新書の表紙を見たときに、タイトルや著者は目、オビの文言は口や鼻である、という比喩には目からウロコが落ちた。
今回は、実際に新書のオビをつくるときのこだわりや、他社の新書と違う「カラー」なんかを探ってみよう!
ヨネ パスカルは言う、「あなたに長い手紙を書いてしまったのは、短い手紙を書く時間がなかったからです」と。
ナナ つまり、時間をかけてしっかり考えれば考えるほど、相手に伝える言葉はシンプルな、短い文言に凝縮される——。
これ、耳が痛いです(汗)。私、普段からメールがダラダラと長文になってしまって……。でも、本当に相手に伝えたいことって、一言でストレートに表現できるものですよね。「あなたが好きです!」とか「これはやりたくないです!」とか。
パスカルさん、良いこと言いますね!
ヨネ そうだね。さっき言ったように、太いオビにたくさんの文字を詰め込むよりもシンプルな格言こそが、読者を惹きつけると思うから、それを表すためには太いオビで表現する必要は必ずしもない。
賢明な読者は、言葉を多く継ぎ足している新書のオビを見たら、「これだけ言葉を足さないと中身を表現できない本って、要領を得ない中身なのでは?」と首をかしげるかもしれない。
つまり、オビにだらだらと文句を長く連ねる本はつくりたくないという意味で、最初から太いオビにはしたくない。
ナナ 先ほどの顔の譬えで言うと、鼻にも口にも文字をたくさん入れたくないということですね。そして鼻の部分の文字ですら要らない……でも、鼻の部分にある言葉にも、惹きつけられることがあります。
ヨネ シンプルな一言ならば、太いオビで鼻の部分に鮮烈な言葉を持ってくるのも、アリだとは思う。
ナナ 細かい文字がオビや表紙にたくさん詰まっていると、本屋さんで見かけても、なんだか読むのが面倒だな、と飛ばされてしまうかもしれません。
ヨネ そう、それがふたつめの理由につながるんだけれど……これだけ書店で新刊が多く溢れているときに、多くの文字情報は、読者にスルーされると思う。1秒もかからずに次々と目が移る読者を、どれだけ引き止められるかで勝負!
ナナ ふむふむ。目に留まる、という意味では、カラフルな写真やイラストを使うのも効果があるのではないでしょうか?
ヨネ それはよいと思う! 文字情報以外のビジュアルでオビを表現すると、読者もパッと目に留まりやすくなるし、アイキャッチとして、著者写真や画像などの、文字では表現できない部分が響く。
ナナ 文字とイラスト、それぞれの使い方や組み合わせにも、色々と工夫ができそうです。
前回の記事を公開したあとで、現代新書のオビの良いところとして、①タイトルとしての上段、②太いオビの上段に来る文言(中段)、そして ③下段の文言という3段のレイヤーに分かれているからこそ、目に留まりやすいという意見がありました。
ヨネ なるほど、そう思う! そのうえで、その中段と下段をいかにシンプルな文言にするかで、僕は勝負したい。情報が多すぎる表紙は、あまり読まれない時代だと思うから。
人の説教やスピーチも、やたら長くて、「で、何が言いたいの?」という話ってだいたい面白くなくて、心に響かない。すっきり短く、言いたいことがクリアに終わった……というほうが、感動したりする!
ナナ (なんだか、私の予想以上に、熱がこもってきたな……)ダイエットや断捨離と同じで、余分なものはスッキリ削ぎ落として、スマートにすることが大切ですね。
ヨネ さて、最後の3つ目だけれど、これはけっこう個人的な理由……僕は自宅の本棚に並べる本は、読む前の本はオビつき、読んだ後の本はオビなしというふうに区別している。並べる本にオビがないほうが、読了感が出るんだ。
ナナ ……実に、個人的な趣向ですね(笑)。
ヨネ そして、本のオビは大好きだから、必ずとっておいて、読むときは必ずしおりにして、読了しても中に挟んでおく。そのとき! 現代新書の太いオビは、とじ込んでも、本からはみ出ちゃう。嗚呼、はみ出ちゃう!
これが、太いオビが好きではない理由その3。
ナナ たしかに、しおりとしては、ちょっと使いづらいです。
ヨネ 加えて言うと、カバーソデに本の引用文などがあるとすると、オビで隠れて読みにくいという難点もある。
ナナ ううむ、言われてみれば(ヨネさんは「作る側」としてだけじゃなく、「読む側」としての思い入れもやっぱり強いんだな……しかし、この趣向を聞いていても、前に進まない……)
3つの理由はわかりました! 具体的な話に入っていきましょう!
これまでつくってきたなかで、思い入れのあるオビを挙げるとしたら何ですか?