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自動車業界に波紋!マツダの「新・人材採用法」が画期的すぎるワケ

技術者向けの教育内容をすべてオープン
井上 久男 プロフィール

「マツダらしさ」をさらに発展させるための一手

渡辺氏は専門学校を出て半導体製造装置メーカーに就職してシリコンバレーに駐在後、マツダに転職した。その後、外資のソフトウエア系企業に転職したが、マツダがシリコンバレーオフィスを新設するにあたり、再びマツダに戻って14年から3年間シリコンバレーで勤務した。現地の豊富な人脈を活かしてユダシティ創業者のスラン氏と出会い、意気投合した。

渡辺氏は言う。

「この採用システムは、OJTをユダシティに外部委託しているとも見て取れます。仮に大学院生がこの教育コンテンツを受講してマツダに入社すれば、入社2~3年目程度の水準の知識は得ることになるでしょう。

私自身が大卒ではないので、インターネットさえあれば最先端の教育が受けられるチャンスを作ろうとしているスラン氏の考えに共鳴しました。自動運転など自動車メーカーは開発競争が激しいが、技術開発ではどの企業も同じようなことをしています。自社独自の開発哲学の下、その技術をどう使いこなすかが問われ、それがマツダらしさにつながります。マツダらしいクルマを造っていくためにも必要になるシステムではないでしょうか」

ユダシティの創業者で、社長兼CEOであるスラン氏は筆者の取材にこうコメントした。

「マツダのような世界的なイノベータ―や雇用主と提携することで、教育を民主化するという使命をさらに深めることができる。近年は最適な人材がいなければ、デジタル化の推進は不可能であり、マツダとパートナーを組んでスキルベースのトレーニングを活用して新しい人材を特定し、かつ、既存の従業員を熟練させる方法を再定義していくことに興奮している」

マツダは、2030年までにエンジンだけで走るクルマをなくし、すべて電動化する新戦略を10月2日に発表した。今後は、エンジンとモーターを組み合わせたハイブリッドやプラグインハイブリッド、EVの新商品を強化していく。電動化の推進によってソフトウエアの開発力が一層求められるだろう。

 

マツダは「スカイアクティブエンジン」で復活を遂げ、現在はそれを基軸にした商品を展開しているが、この方針は変えない。二酸化炭素削減という環境問題対応のために電動化は進めるが、「虎の子」のエンジン技術の開発は今後も緩めることはない。なぜならば、電動車の時代になっても優れたエンジンとモーターの組み合わせが、燃費や乗り心地の向上などにつながるからだ。

これは同時に複数のパワートレインを効率的に開発していかなければならないことも意味する。すでにマツダはスカイアクティブエンジンの開発で、「モデルベース開発(MBD)」と呼ばれる手法を導入。これは、試作品などの実物を使って試行錯誤しながら開発するのではなく、開発の上流段階で、製造工程も含めてバーチャルに検証していく開発手法だ。こうした開発手法をさらに発展させていくためにもソフトウエアの技術者のレベルアップが求められている。

次世代技術戦略は、丸本明社長と藤原清志副社長が記者会見して公表したが、2人がこだわったのも「マツダらしさ」をどう維持し、発展させていくかだ。そのために、自社の得意とする技術と新しい技術・発想を組み合わせていくことに力を入れていく。新たな採用システムの導入は、その一助となるはずだ。

そして、こうした採用方法はマツダだけに必要なものではないと筆者は考える。時代の変化に合わせて、企業が必要とするエンジニアをどう採用し、育成していくかが重要になるが、大学の研究室との連携や旧来型の人材仲介会社活用だけでは限界がある。さらに言えば、一旦採用した人材も、学び続けなければ「頭脳」の中身がすぐに陳腐化する時代になっているからだ。