エンボスドリフト錯視

なぜ静止画が動いて見える? 「錯視」の謎はここまでわかった!

渋滞解消にも応用できる最新研究を紹介
「目の錯覚」こと錯視。さまざまな図形がなぜ歪んで見えたり動いて見えたりするのか、脳のどの部位がそのように見せているのか、体系的に明らかにしたのが立命館大学の北岡明佳教授。
その原理から同大学の對梨成一助教による交通渋滞対策への応用まで、「錯視研究」の最前線を解説する。

(立命館大学研究活動報「RADIANT」より転載)

錯視に科学の光を当ててみたら

「錯視は、対象の真の性質とは異なる知覚あるいは認知です。錯覚のうち、視知覚性の現象を錯視と言います」

そう口火を切ったのは錯視研究で世界屈指の実績を持つ北岡明佳。北岡は錯視を対象に知覚心理学の領域から人間の「知覚」の謎を解き明かそうとしている。

北岡によると、古くから錯視を利用した絵や幾何学図形が作成されるなど、錯視研究の歴史は長いが、知覚心理学や脳神経科学の発達に伴って錯視に科学の光が当たったことで今、大きく進展しつつあるという。

たとえば錯視の一つに「傾き錯視」と呼ばれるものがある。平行に描かれた2本の線分が曲がったり斜めに傾いで見える現象で、よく知られているものに「フレーザー錯視」、「カフェウォール錯視(ミュンスターベルク錯視)」がある。

北岡はこれらの構造を分析し、より上位の「フレーザー錯視群」として一つにまとめられることを提唱した。

「フレーザー錯視とは、斜線を並べると、その斜線の傾きと同じ方向に全体が傾いて見える錯視です」

明・暗のコントラストの異なる線と線を組み合わせるラインタイプ、明・暗の位相の異なるエッジを組み合わせるエッジタイプ、さらに明・暗の線とエッジの4要素を組み合わせる混合タイプの3種類の線とエッジの組み合わせで、すべてのフレーザー錯視を分類できると説明した。

一方のカフェウォール錯視は、白黒の正方形列と灰色の水平線とを組み合わせることで、ある条件下で灰色の水平線が右肩上がりに傾いて見える現象だが、北岡はこの錯視も新たな「フレーザー錯視群」に包摂できることを示した。

カフェウォール錯視カフェウォール錯視の例

さらにこれらの傾き錯視にはしばしば「静止画が動いて見える錯視」が同時に観察されることを発見した北岡。

「大脳の第一次視覚野には方向選択性と運動選択性の両方の作用を持ったニューロン群があります。この錯視にはこれらのニューロンが関与しているのではないかと考えました」として、「フレーザー錯視群」を構成する4つの基本要素を組み合わせた「トゲトゲドリフト錯視」(詳細は次ページ図)を作成。同じ方向に動き続けて見える「4ストローク運動」の性質で説明できることを示した。

現代では錯視の多くは網膜ではなく脳神経系で発生すると考えられている。脳内の錯視の発生場所を推定してみせた北岡の研究はその成果の一つといえる。