遺産相続にかかわる民法改正は1月から順次施行される。ルールが変わることで、「誰もが相続についての基礎知識が必須になった」と指摘するのは吉澤相続事務所の吉澤諭氏だ。
「この民法改正で相続実務のセオリーが一変する可能性があります。相続の基礎知識のあるなしで、残せる資産の額も大きく変わってくるでしょう」
しかし、「こう変わる」と噂されている内容には、ウソもホントもある。何が正しいのか、どう備えるのが得なのか、相続のプロの協力のもと、素朴な大疑問にわかりやすく答えていこう。
夫と妻、どちらが先に死ぬと得なのか?
その鍵は、新設された「配偶者居住権」にある。
A男さんの資産は自宅5000万円と現金が5000万円の計1億円だ。家族は妻と子どもが2人。従来通りの方法では、妻に2分の1の5000万円が相続され、子どもにそれぞれ2500万円ずつが相続される。
だが、妻が5000万円の自宅を相続してしまえば、手元に現金が残らず、住む家はあるが生活費が困窮してしまう懸念があった。そこで、今回「配偶者居住権」が新設された。
妻は自宅に2500万円分の居住権を設定し、子ども2人に所有権をそれぞれ1250万円分ずつ持たせる。これにより、妻には住む家に加え、生活費となる2500万円の現金が残せるようになるというわけだ。
妻は法定相続分の2分の1(上限1億6000万円)までは配偶者控除が受けられるから、A男さんの妻に相続税がかからないのはこれまで通り。だが居住権の設定のメリットは、その後にある。
「配偶者居住権は死後消滅すると解釈できますから、A男さんの場合、妻が亡くなった後の2次相続で、子は課税を免れます。
妻が仮に現金2500万円を丸ごと残していたとしても、2人の子どもは、基礎控除4200万円まで課税されないので無税となり、かなりお得になります」(夢相続代表・曽根恵子氏)
要するに、居住権の設定で、課税対象となる財産を減らせるのである。
では逆に、A男さんより先に妻が亡くなった場合はどうなるのだろうか。
「自宅を所有している夫が妻に先立たれても、配偶者居住権は使えません。自身の死後はその資産が一度に丸ごと子どもに相続されます。妻が受けられる配偶者控除の特例を利用できず、また配偶者を介すことで2度使えた基礎控除も一度しか使えません」(曽根氏)
A男さんが妻より先に亡くなった場合、相続税の総額は約315万円程度。妻が先に亡くなった場合、子には770万円と2倍以上の相続税がかかる計算だ。新制度を使うなら、「夫が先に死んだほうが得」は事実だ。