なぜ80年代の人々は、ゲームの粗いドット絵に熱狂できたのか?

AIの究極課題を解くカギがあった!
スーパーマリオブラザーズ(任天堂、ファミリーコンピュータ、1985)
『スーパーマリオブラザーズ』のプレイヤーは、マリオを「アイコン(人物の似像)」として、そしてまた「オブジェクト(操作対象)」として見ている。すなわちプレイヤーは、スクリーンの上に意味論的過程と統語論的過程を同時に知覚しているのだ
Photo by DG-RA / Pixabay

「スクロール」は大発明だった

また吉田は、感性学からアプローチすることで、技術的にはまだ稚拙であった1980年代以前のビデオゲームを、人間の知覚の特性(錯覚など)を効果的に利用したものとして再発見する。

「そこに最新のコンピュータ技術やVRの進化の鍵があるのではないか」と吉田は提起する。たとえばビデオゲームの最も基本的な構成原理である「スクロール」もその一つだ。

スクロールとは、モニター(テレビ)の画面を上下左右に動かすことで運動の感覚や、画面の外側にも空間が連続しているような錯覚をもたらす技術である。

「今ではゲームのみならず、多くのコンピュータソフトウェアにも組み込まれているこのスクロールの技術は、1970年代後半に自動車レースのゲームのなかで生み出されました」

吉田の解説によると、『モナコGP』(1979年)は、他の車や道路などの背景を画面の上から下へと流すことで、プレイヤーが操作する車が前進していくような感覚を生み出した最初期のゲームである。

また『ナイトドライバー』(1976年)は、真っ暗な背景をバックに幾つかの白いオブジェクトを動かすだけで、自分が運転する車が前方に進んでいるような運動感覚を生み出している。

  『ナイトドライバー』のプレイ動画

「現代のゲームに比べてシンプルな昔のビデオゲームだからこそ、人間の知覚の特性やイリュージョン(錯覚)をフルに利用して空間や運動を表現していました。そこには驚くべき知恵と工夫が見てとれます」と吉田はいう。

CGなしで三次元を表現した技術に学べ!

また吉田は、三次元コンピュータグラフィックス技術(ポリゴンなど)がビデオゲームに導入される以前の、いわゆる「疑似3D」のゲームの視覚的表現技法にも注目してきた。

そのなかでも、視差による奥行きの錯覚を生み出す「パララックス効果」の研究は、とりわけ興味深い。

「パララックス効果を最初に導入したビデオゲームの『ムーンパトロール』(1982年)では、空間が茶色(地面)、緑(丘陵)、青(山岳)という色の異なる三つのレイヤーで構成されていて、それら三つのレイヤーがそれぞれ異なる速度でスクロールするために、プレイヤーの目にはゲームの空間に奥行きがあるように見えます」

そして、この技法は、ディズニーのアニメ映画からビデオゲームに持ち込まれた可能性がある、と吉田はいう。

技術的には現在の精細な3D画像とは比べるべくもないが、人間の認知の仕組みを的確に理解して、三次元を表現するという目的を過不足なく実現している。

こうした技術が、スーパーファミコン(1990年)やプレイステーション(1994年)が登場する以前の1980年代までにほとんどすべてが出そろっていたというから驚きだ。

「機械技術の進歩を、そのままゲームの進歩と見なしてよいのか。技術の進歩は、むしろ人間の想像力を覆い隠したり、退化させたりすることがあることがあるのではないか。そして同じことは、最新のAI技術開発においてもいえるのではないか」と問いかける吉田。

「昔のビデオゲームの一つひとつに詰め込まれた『知恵』と『工夫』を読解することで新たなAIをデザインする道筋が見えてきたらおもしろい」と目を輝かせる。

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