医学部入試で差別されてきたことが明らかになった多浪生たちの悲哀

覆面ドクターのないしょ話 第39回
佐々木 次郎 プロフィール

多浪生の前に立ちはだかる障壁とは?

さて、多浪生には「イカ太郎」の他にもう1種類あると申し上げた。その第2は「再受験組」である。

さる9月27日、NHKの島津有理子アナウンサーが医師になることを目指して、同局を退職することが発表された。44歳での「再受験」である。一大決心であり、エールを送りたい!

 

医学部へ入学する「再受験組」にも2種類ある。

「一般受験組」と「学士編入組」である。一般受験は文字通り、もう一度受験勉強をして入学試験を受ける方法で、ハードルもリスクも高い。「学士編入」とは、大学の教養課程などを修了した人が医学部に編入する制度である。

「イカ太郎」と「再受験組」とでは、医学部入学後のモチベーションが大きく異なる。誰だって大学に合格したら、勉強から解放されたいと思う。イカ太郎は既に疲労困憊していて、もう勉強なんかしたくないと思っているのではないか?

一方、再受験組は今までの経歴を活かし、あるいは今までの経歴を捨ててまでして医学部を志した人たちだ。

「医学を学ぶぞ!」
「患者さんを救いたい!」
「どうしても医者になるんだ!」

はなからモチベーションが違うのだ。

だが、イカ太郎でも再受験組でも、医学部の進級試験では苦労すると思う。医学部はとにかく覚えなければいけないことが多過ぎる暗記・暗記の連続だ。どこが理科系なんだろう?と思うくらい、暗記しなければならないことが多い。

社会人は理論さえ理解していれば、一言一句暗記していなくても、資料やパンフレットを見ながら説明することが許される。しかし、医学部の進級試験では、物の名前が口から出てこなければパスできない。

モチベーションが低いイカ太郎もモチベーションが高い再受験組も、暗記が難しくなっていくお年頃である。頭では理解していても、暗記すべきことが答えられないために、進級試験や国家試験で苦労する多浪生が多いことも確かだ。

多浪の末に医学部に合格しても、暗記地獄が待っている(photo by istock)

私は32歳で専門医試験を受験したので、多浪生が医学部で苦労する気持ちはわかる気がする。年を取ると、暗記したこともすぐに忘れてしまう。集中力が続かず、30分勉強したら飽きてしまい、ビールを飲んでしまうことなど日常茶飯事だった。さらに困ったことに、2回目、3回目の復習の際、過去にその問題を解いたことさえ忘れてしまっている有様だった。

話は変わるが、週刊誌「サンデー毎日」には、毎年東大合格者が掲載される。かつては性別、出身校のほか、現役あるいは何浪かということまで記載されていた。

私が通っていた予備校の物理の先生は、東大理科1類(理1=理工系学部)を卒業後、大学院に進み、研究のかたわら(さぼりながら?)予備校で講師としてアルバイトをしていた。予備校の方が面白くなってしまい、大学院も留年の末、6年で修了した。

するとその先生は、直後に東大理科3類(理3=医学部)を受験し直し、見事合格したのだ!

「どうして医学部を受けたんですか?」

と、まるで2次試験の面接みたいに私が質問したところ、こう答えた。

「合計14年間も通学定期が使えるんだよ。魅力的だと思わない?」

さすが東大生の考え方は違う。

だが私が驚いたのは実はそこではない。その先生は東大の医学部に合格したのだから、当然サンデー毎日に名前が掲載された。そして名前の下に次のように書かれていたのだ!

「10浪」

現役偶然、1浪当然そして……10浪はまさに無為自然!

島津有理子アナを仮に多浪生とすると、現役が18歳、彼女は44歳。とすると彼女は……。

「26浪」

す、すご過ぎる! これぞ空“然”絶後の史上空“然”?