なぜNHK「まんぷく」は、安藤百福の“台湾ルーツ”を隠したのか

好調ドラマが描かなかった物語
野嶋 剛 プロフィール

安藤が「発明」としている麺を油で揚げて調味料をまぶし、お湯をかけて食べる調理法については、安藤の出身である台湾南部において、戦前から「雞絲麵」(ジースーミエン)「意麺」(イーミエン)などと呼ばれる油揚げの即席麺が広く存在していたからだ。

安藤がその故郷の即席麺にヒントを得て、油で麺を揚げたチキンラーメンの商品化に成功したのではないかという推理を、私は前掲著「タイワニーズ」のなかでも展開した。また、日本の台湾華僑の間でも、同様の指摘はあちこちで耳にする。

 

そうしたことも、安藤サイドが台湾との関わりを語りたくなかった理由かもしれない。だが、即席麺を大量生産化し、日本と世界に広げた安藤の経営業績は、たとえそれが完全な発明でなくてもまったく曇ることはないのだが。

安藤百福像。カップヌードルミュージアム 横浜にて、筆者撮影

NHKは作品公式サイトに、「実在の人物をモデルとしますが、激動の時代を共に戦い抜いた夫婦の愛の物語として大胆に再構成し、登場人物や団体名は改称した上、フィクションとしてお届けします」と前置きしている。台湾というルーツは、「夫婦の愛の物語」には必要なかったということだろうか。

しかし、今後のドラマの主要な中身となる「チキンラーメン」の「発明」については、前述のように安藤が台湾出身でなければ思いつかないことであった可能性が高い。

また、成功を目指して必死に事業を起こしては失敗し、それでも最後に日清食品の創業に結びつけた彼のたゆまぬ努力は、日本社会でマイノリティであった台湾出身者のハングリー精神抜きに語ることは難しい。

さらに重要なことは、日本と台湾との歴史的関係のなかで、安藤が戦前、日本語教育を受けたゆえに戦後の日本でも活躍の道が広がったことについて一切触れないことで、日本が日清戦争で清朝から獲得した台湾を、50年間にわたって統治した史実すら隠してしまう歴史認識の問題も孕んでいるように思える。

ドラマではすでに萬平は台湾人ではないという設定になっているので変更は難しいだろうが、安藤が台湾出身者であるという事実については、今後も日本社会で広く知られていくべきであると私は考えている。