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SNSのせいで「見たいものだけが本物」と思う世の中になるなかで

芥川賞作家が描くリアルな物語

楽しくなくても「楽しい」を作れる

—芥川賞受賞以来、2年ぶりの新作となった本書は、インスタグラムやネットショッピング、動画投稿など、SNSが不可欠となっている人たちのありようを辛辣に描き出した作品集です。

今回、SNSをテーマに作品を書こうとしたきっかけを教えてください。

新しい作品の執筆がなかなかうまくいかず、気分転換で友人と行ったマレーシア旅行での経験がきっかけでした。私はふだん、スマホで写真を撮ってSNSに投稿するということをあまりしません。

でも旅行中、インスタグラムをやっている友人の真似をして写真を撮ってみると、「すごく楽しいところに来た私たち」に見えたんです。たいして面白い旅ではなかったのに(笑)。

 

実感が抜け落ちて、スマホの画面の中に写っているものだけが真実として残っていく。この感覚は小説になるかもしれないと直感的に思いました。

—その旅行の経験が反映されたのが冒頭の一篇。「インスタ中毒」と呼ぶべき男女3人が、不都合なものを排除した写真をSNSに次々とアップして、「楽しい旅」を作り上げていきます。

彼らは、写真に邪魔なものが写り込んでも、それは削除して最初からなかったことにする。そして画面上での自分たちを見て「おれらすっげえ楽しそう」と満足げに言う。ポジティブなことだけを見て、世界を自分の思い通りに作っていくのです。

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かくいう私も、LINEをしていると、自分の性格の悪さが抜け落ちて、画面には「良い人」が語ったような言葉が映るんです。ネガティブな事実を巧妙に隠せる時代になったような気がします。