私の夫・ラドワン(写真はすべて筆者撮影)

ある日突然、恋人が「難民」となり、国を出て生き延び結婚するまで

いまだ続く「シリア内戦」の一側面

「内戦」の代名詞となった国

雑踏のなかにどこかスパイスの香りがする。ヨルダンの首都アンマン。

2012年5月、この街で私はあるシリア人男性と結婚した。彼の名はアブドュルラティーフ・ラドワン。

私たちはシリアの沙漠で出会った。2008年10月の終わりのことだ。当時写真家を志していた私は遊牧民の撮影のため訪ねていた沙漠で、ラクダを連れた彼に出会った。

––––シリア。今や内戦の代名詞となった国。2011年から続く内戦によって国土は荒廃し、50万人の死者、550万人の難民を生んだ。人口2240万人のうち、その半数にあたる1300万人が生活を失ったとされる。

だがかつてのシリアは、そうした終わらない戦闘や大量の難民というイメージからは程遠い、伝統に彩られた生き生きとした営みがあった。

シリア沙漠でのラクダの放牧。ラクダはまばらに棘の生えた草を食べながら歩き続ける

シリアはアラビア半島の付け根に位置する中東の一国だ。国土は日本の半分ほどだが、西は地中海に面し、北には大河ユーフラテス川、東南部にはシリア沙漠が広がる。

古代から東西交渉の要衝の地として栄え、国土全体がまるで巨大な博物館だ。最古の街のひとつとして世界遺産に登録された首都ダマスカスや商業都市アレッポを歩けば、古代と現代が同じ空間に存在することを実感したものだ。

 

ラドワンと出会ったのはシリア中央部のオアシス都市パルミラ郊外の沙漠だ。パルミラは街の郊外に世界遺産パルミラ遺跡が残り、壮麗な柱廊や神殿跡がかつての栄華を物語る。

沙漠を行くキャラバンの中継地として繁栄をきわめたが、ローマ帝国に反旗を翻し三世紀に滅亡した。栄華を失った後もオアシスとしての機能は失われることなく、沙漠に生きる者に恵みを与え続けてきた。

街の郊外には見渡す限りの沙漠がひらけ、放牧を生業とする沙漠の民ベドウィン族が多く暮らしている。ラドワンの家族もまたパルミラを拠点に100頭近いラクダを沙漠で放牧する半遊牧民だった。

早朝、ラクダの放牧に出る。奥のラクダの片足は、夜の間に移動しないよう結ばれている