1gで5億円超の物質を量産!? がん治療薬も導く「糖鎖工学」とは

世界唯一の技術を実現した創業者を直撃
リケラボ プロフィール

研究者から創業者へ

──そもそも朝井社長は、どのようにして起業されたのでしょうか。

前職の大塚化学で研究開発や営業を担当した後、2009年に社内に設立された糖鎖工学研究所の所長となりました。2012年に研究所が分社化された際に社長となり、2013年にマネジメント・バイアウト(自社買収)により独立しました。

糖鎖と知り合ったキッカケは、社内で新規事業の立ち上げを命じられ、いろいろとネタを探したからです。

──それはいつぐらいのことですか。

2002年です。新規事業のネタをいくつか提案し、その中に糖鎖も含まれていました。経営陣で検討された結果、糖鎖にゴーサインが出たので、全国にいる糖鎖研究者のリストを作り、その中から3人にメールを送ったのです。

すると10分後に、当時、横浜市立大学におられた梶原康宏先生(現・大阪大学大学院理学研究科・有機生物化学研究室教授)から電話がかかってきました。用件は「今すぐに会いたい」とのことでした。

その日は出張だったので、翌日出張の帰りに先生の研究室に行くと、机に資料が山積みになって、「これで、ぜひ特許を取りたい。だから協力してほしい」と言われたのです。

資料を読んで可能性に気づいた私は、その場で上司に電話をかけ、特許申請をやりますと伝えました。上司の許可はもとより、返事さえも聞かずに、こちらの要件だけを伝えて電話を切りました。

その結果が、今につながっています。

──ずいぶん思いきった決断ですね。

かなり自由にやらせてくれる会社だったので、許してもらえると思っていました。

もともと研究職で入ったにもかかわらず異動により営業職に配属されていた時代には、仕事を終えると知り合いの大学教授の実験室で研究を続けていました。そこで勝手に開発したサンプルをクライアントに提供したことがあります。

ところが、そのサンプルを気に入ったクライアントから、本社に注文書がFAXで届いて大騒ぎになりました。本社では手掛けたこともないサンプルの正式発注が届いたのだから、それはびっくりしますよね。

そんなことをやるのはどうせ朝井だろうと上司から怒られましたが、結果的にはそのサンプルは製品化されています。

経験原理主義が導いた成功

──それほど研究が好きだった?

実は一度、研究を諦めたことがあります。大学院の修士2年のとき、指導教官にどうしても許せないことがあり、大学院をやめると研究室の主任教授に訴えました。

すると話を聞いた教授から「指導教官を変えたら、お前は半年間、がんばれるか」と尋ねられたのです。それまで1年以上かけて積み上げてきた研究を捨てて、新しいテーマで半年で成果を出す。それは無理だと応えると「いや、やらせてみせる。そのかわり死ぬ気で結果を出せ」と言われました。

それからの半年間は、研究室で暮らしました。おかげで何とか論文をまとめることができたのです。

ただ、研究に没頭していると、何も辛いことはありませんでした。研究は、私にとって天職だったのでしょう。

入社試験の際にも、何をしたいかとたずねられて「一生、試験管を振っていたい」と答えたほどですから。

──そんな朝井さんにとって、研究者とはどのような存在なのでしょうか。

研究者は職人だと思っています。だから、自分の好奇心やスキルが、所属する会社の利益とマッチすれば、これほど幸せな人生はないはずです。

ただ、経験原理主義者の私としては、どこかのタイミングで営業職あるいは顧客と接する経験を持つよう強く勧めます。

会社の利益に貢献するためには、顧客から評価されなければなりません。そのためには、顧客の思考を肌感覚で掴んでおくことが重要です。

そして若い間に、たくさん失敗することです。人は失敗から学び、失敗したときこそがヒューマンネットワークを築くチャンスです。本当に困ったとき、最後に助けてくれるのは、失敗を重ねるうちに築いたネットワークだと思っています。

──最後に読者へのアドバイスをお願いします。

可能ならば、ぜひ学位を取っておきましょう。日本ではあまり重視されませんが、欧米では学位がパスポート代わりになり、持っていると確実に自分の世界を広げてくれます。「ミスター」と「ドクター」では、相手の見る目がまったく変わります。

研究者として仕事をしながらでも、学位取得は可能です。ぜひ、視野を広げて研究人生を楽しんでください。

朝井洋明(あさい・ひろあき)社長
鹿児島大学大学院理学研究科修了後、大塚化学株式会社に入社。8年間の研究所勤務の後に営業職を担当。その後、新規事業開発に携わり、2009年社内に設立された糖鎖工学研究所所長に就任。12年の分社化に伴い社長に就任。2013年、経営陣によるマネジメント・バイアウトにより独立

(本記事は「リケラボ」掲載分を編集し転載したものです。オリジナル記事はこちら