ジャーナリスト・大塚英樹氏は、長年にわたり企業経営の最前線で「企業のトップ」という存在をウォッチしてきた。ビジネスがグローバル化した今、成功に胡坐をかいていられる安泰企業などどこにもない。そんな時代における社長の「確信」を前提とした「覚悟」とはいったい何なのか。大塚氏は近著『確信と覚悟の経営 ーー社長の成功戦略を解明する』で、16人の日本を代表する企業トップにその「確信」と「覚悟」を聞いた。短期連載でお送りする第6回は、三菱地所の杉山博孝会長に迫る。
すでに世の中は「創造と変革の時代」に入っている。
グローバル化、M&Aの洗礼。
GAFA(ガーファ:グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表されるネット経済の急速な進展、人材の流動化、環境問題の深刻化、CSR(企業の社会的責任)への注目の高まり。時代が変わり、スピードがアップした今、多くの企業がビジネスモデルの変更を迫られている。
企業が成長を遂げるためには、イノベーションが必要だ。
イノベーションなき成長はあり得ない。
「保守したくば改革せよ」という言葉があるが、存続するためには、改革し続けなければならない。
その点、杉山博孝も同様、2011年、社長就任以来、事業革新を追求し続けてきた。社長在任中、最も腐心したのは、丸の内地域の新たな街づくりだった。
「丸の内地域を世界一、インタラクション(相互交流)が活発な街に」というコンセプトを強く打ち出し、実現に向けて力を注いだ。
社長就任当時、丸の内の再開発は丸ビル、新丸ビルなど東京駅前中心に開発した第1ステージ(1998年~2007年)を経て、大手町地域を開発する第2ステージに入っていた。
オフィス街は、再開発により、無機質なオフィス街から一変。ファッションブランド、レストラン、カフェが並び、アフターファイブや休日も来街者で賑わうようになっていた。
杉山は、「街づくりは単なるハードではない。ソフトだ」「オフィスビルは、BtoB(企業間取引)ではなく、BtoC(企業対消費者)だ」と訴えた。
杉山のビジョンは、大丸有(大手町・丸の内・有楽町)地域をアジアの一大国際金融センターにすることだ。それを実現するためにはソフト面でイノベーションを起こさなければならない。杉山の1つの大きな使命だった。