意外! 海に舞い降りたPM2.5はプランクトンの栄養になっていた

2つのモデルを結合してわかった真実
海洋研究開発機構 プロフィール

「栄養塩」になるかもしれないPM2.5

──PM2.5が海の生態系に影響を及ぼす可能性とは、どういうことでしょうか。

その話をする前に、海の生態系について説明します。

海には、植物プランクトンを出発点とする食物連鎖があります。植物プランクトンは硝酸塩、アンモニア、リン酸塩などの「栄養塩」を吸収し、光合成により有機物をつくります(図4)。

植物プランクトンと物質循環図4 植物プランクトンと物質循環

その植物プランクトンを動物プランクトンが食べ、その動物プランクトンを小型の魚が食べ、その小型の魚を大型の魚や海洋性哺乳類が食べます(図5)。

海の生態ピラミッド図5 海の生態ピラミッド

植物プランクトンは、食物連鎖を通じて海に生息するすべての生物にかかわっているということです。

植物プランクトンは主に表層付近に存在し、太陽光と水温、そして栄養塩によってその量が決まります。

河川水が流入する沿岸域や、鉛直混合が強い海域は栄養塩が豊富なため、光合成による生産(一次生産)が活発に行われ、植物プランクトンは多くなります(図6)。

SeaWiFS衛星観測データから求められた、北太平洋におけるクロロフィル濃度の分布。クロロフィルは植物プランクトンが持つ光合成色素で、植物プランクトン量を知る指標となる。図6 SeaWiFS衛星観測データから求められた、北太平洋におけるクロロフィル濃度の分布。クロロフィルは植物プランクトンが持つ光合成色素で、植物プランクトン量を知る指標となる。

一方、沿岸から離れた熱帯・亜熱帯海域や、鉛直混合が弱い海域では栄養塩が乏しく、一次生産はあまり活発ではありません。

そして、過去に我々が行った陸上での観測から、時期もよりますが、東アジアでのPM2.5の主成分は硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオン、有機物だとわかっています(図7)。

PM2.5の成分の一例図7 PM2.5の成分の一例(中国上海近郊でのサンプリング結果)

この中の成分には、植物プランクトンの必須栄養塩である、硝酸やアンモニウムなどの“窒素化合物”が多く含まれます。

PM2.5が栄養の乏しい海域に運び込まれると、PM2.5中の窒素化合物が栄養塩として植物プランクトンに利用される可能性が指摘されているのです。

──大気汚染で知られるPM2.5 が、海では栄養塩として利用されるかもしれない?びっくりです。

この可能性については、これまで海上での窒素化合物観測の結果を利用し、経験式を使った推定は行われていました。

大気中に存在する窒素化合物は海にこれくらい入ると思われるので、海の生産にはこれくらい影響があるだろう、と。

大気中と海中、それぞれのモデルを結合

しかし、海中に運び込まれた窒素化合物が海の中でたどるプロセスまでは考慮されていませんでした。

ならば海のプロセスを考慮したとき、植物プランクトンはどのような応答をするのか。

私は大気化学分野の研究者ですが、JAMSTECには海の研究者がいます。そこで大気と海洋の分野横断での研究を実施しました。