もし中間選挙で民主党が勝利したら、一番困るのは民主党かもしれない

敵はトランプにあらず…
渡辺 将人 プロフィール

集票対象の価値の決まり方とは

「ニューヨーカー」誌のインタビューでリラはこう答えている。

「アメリカ人の4人に1人が福音派だ。アメリカ人の37%が南部に住んでいる。農村に住んでいるアフリカ系アメリカ人は17%に過ぎない」

「トランスジェンダーのアメリカ人は、アメリカ人全体の0.5%以下にしか過ぎない。民主党が熱心に動員しようとしている対象は選挙民集団としての体を成していない」

刺激的に聞こえるが、マイノリティに特化したキャンペーンが福音派キリスト教徒など保守的なアメリカ人をかえって焚き付けてしまうという懸念は一理ある。

しかし、集票対象の価値は票の量的な数では計測できない面もある。ネットワーク、資金力、政治参加の情熱に裏打ちされた政党への忠誠心(例えば公民権運動以降のアフリカ系)はその集団の数とは無関係だ。民主党の集票現場からは異論もある。

第3に、「運動の政治」との決別だ。リラは「運動の政治」(ムーブメント・ポリティクス)は人々を「政治的立場の面で過激化させ、お互いに政治的な厳しい基準を相手に押しつけ合いがちになる」と主張し、「運動の政治」自体を否定している。

1960年代以降、「運動の政治」によって社会変革を目指してきた民主党リベラル派には、存在価値そのものを否定されたように受け止められかねず、大胆な指摘である。

 

「アイデンティティ政治」と不可分の集票

リラの主張は、民主党の政治家やスタッフなど「現場」には理想論に過ぎないと受け止められている現実もある。それはアメリカの選挙政治が「アイデンティティ政治」と選挙上、既に不可分の関係にあるからだ。

アメリカの政党は伝統的にエスニック集団を選挙民として重視してきた。候補者とコミュニティとのリエゾン行為を「エスニック・アウトリーチ」と呼び、選挙過程のみならず議員の日常的選挙区対応においても定着している。

とりわけ民主党内ではマイノリティ層をどれだけ取り込めるかが支持基盤固めの優先課題だ。民族意識、人種意識にアピールし、各集団が政治的影響力を拡大するインセンティブを引き出す「取引」でもある。

つまり、アメリカの選挙政治は「アイデンティティ政治」と表裏一体で発展してきた。 選挙政治の周辺にいた集団を次々と選挙に参加させることを通じて, アメリカ政治の民主化を促進することに貢献したことも事実だ。

また、1970年代以降の地方政党組織の衰退、郊外化、人口動態変化のほか、政党ではなく候補者が自前で選挙運営をする「候補者中心選挙」などアメリカ特有の政治変動への適応でもあった。

しかし、対立とイデオロギー的分極化の増幅という副作用があった。

先住民DNA騒動が示すもの

民主党の政治家が安易に「アイデンティティ政治」で票を取ろうとする問題は、エリザベス・ウォーレン上院議員の「先住民DNA騒動」でも露見している。

先住民の血が入っていると主張してきたウォーレン議員に対し、トランプ大統領は「ポカホンタス」と小馬鹿にしてきた。先住民かどうか真偽も問われてきた。そこで10月半ばにウォーレンは遠い祖先に先住民がいるとしたDNA鑑定を突如公開した。

だが、先住民の「チェロキー・ネーション」からはDNA鑑定について「不適切で間違っている」と反発された。部族は独自の基準を持っており、部族の市民の名誉を傷つけるものだと先住民の指導者が声明で痛烈な批判を加えたのだ。

民主党のベテラン戦略家が「同じ実力なら女性であることは今の民主党では武器」と断言するように、民主党ではマイノリティに近いことは有利だ。候補者自身がマイノリティであれば尚更いい。ウォーレンも「マイノリティ」であることを政治的に利用できればという下心があったのは事実だろう。だが、はからずも先住民文化への理解不足を露呈してしまった。

ウォーレンは嬉々としてDNA鑑定の結果をビデオ映像で公開したが、選挙キャンペーンの「生い立ちビデオ」風だったことから、自分の大統領選挙のためかと揶揄され、中間選挙前に何をしてくれるのだと民主党内にも批判がある。

マーク・リラの「脱アイデンティティ政治」論は、マイノリティの権利の軽視と誤解され、現時点では異端的な「暴論」として左派メディアには集中砲火を浴びている。

中間選挙で仮に民主党が大勝し、それがジェンダーや人種のパワーのおかげと総括されれば、民主党の「アイデンティティ政治」依存は不可避に強まる。ウォーレンと同じように「アイデンティティ政治」を梃(てこ)に大統領の座を狙う候補も既に動きだしている。

「このままでは民主党は、サンダースの社会主義か、アイデンティティ政治か、しかなくなる。少し負けるぐらいが、党の方針を反省する気運にはちょうどいい」と小声で話すリラの同調者の民主党スタッフもいる。

リラの処方箋が米民主党内で浸透するかどうかは、長期的にはアメリカの選挙政治やデモクラシーのあり方にまで関係する大きな試金石になる。

(つづく)

短期集中連載【アメリカ中間選挙2018】
1.民主党に神風は吹くか? 「前哨戦」を読み解く
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57927
2.なぜトランプをキリスト教保守は支持するのか?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58025
3.「反トランプ」が一枚岩になれない理由
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4.中国の報復関税にあえぐ農業州はトランプを見放すか?
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58111