もし中間選挙で民主党が勝利したら、一番困るのは民主党かもしれない

敵はトランプにあらず…
渡辺 将人 プロフィール

好例はアフリカ系の先鋭化である。

2014年にミズーリ州ファーガソンで白人警察官が非武装の黒人青年を射殺した事件は怒りの暴動を生じさせた。この事件以後、全米で拡大した黒人運動に「ブラック・ライブズ・マター(Black Lives Matter)」がある。直訳すれば「黒人の命も大切だ」運動である。

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この運動が過激過ぎることに民主党は頭を抱えてきた。「大半の穏健なアフリカ系もついていけない」と民主党の議会スタッフは口々に語る。黒人票は世代によって分断されている。「親達はブラック・ライブズ・マターのことを暴徒にしてか思ってない」と語る30代、40代の黒人民主党支持者は多い。

バーニー・サンダース上院議員の集会に乱入した事件も有名だ。2015年夏のシアトル演説会では、2人の女性がいきなり壇上に上がり、「言うことを聞かないとイベントを潰す」とサンダースを脇に追いやった。「シアトルは人種差別の街だ」と叫び、ファーガソン事件への祈りを求めた。サンダースは困惑の表情で途方に暮れていた。

たしかにサンダースは人種を論じない。民主的社会主義として、どんな人にも平等に所得格差是正を目指す博愛主義者だ。それが黒人活動家はどうにも気に入らない。

 

オバマの「人種封印」への反動?

黒人のなかに静かな反発もある。30代の旧知の黒人研究者(政治学)は「彼らのような運動はよくない。彼らはトランプをイービル(邪悪)だと罵るが、そういう汚い言葉を使うべきではない」と述べるが、公の場で批判するのは難しいと言う。

無論、ラディカルなブラック・ナショナリズムは今に始まったことではない。1990年代にはルイス・ファラカンの「ネイション・オブ・イスラム」の運動が旋風を巻き起こした。

「ブラック・ライブズ・マター」の特徴は、白人の若者の活動家の参加者が多いことだ。ツイッターで広がったオンライン運動で、黒人問題に特化した「ウォール街を占拠せよ」分派の色彩が濃い。

2008年のオバマ勝利当時、「黒人大統領」誕生で人種問題が万事解決したかのような言説や幻想も流布された。オバマは自らの多文化的なアジア太平洋ルーツを極力封印し、「人種ニュートラル」路線に徹した。「人種の棚上げ」とも言うべき処世術を政権にも持ち込んだとすれば、人種問題は可視化を抑制されただけで、容易に再燃しても不思議はない。

現に「ブラック・ライブズ・マター」はオバマ政権末期に台頭し、トランプ政権1年目にはシャーロッツビル事件、NFL国歌斉唱問題など人種問題が頻発している。差別主義者ではなくむしろ人種差別に憤りを感じている層にも「公民権運動は支持するが、ブラック・ライブズ・マターは支持できない」という人が増えている。この状況は黒人のためにもならない。

「運動の政治」を否定できるか

マーク・リラが民主党再興のために米論壇で展開している主張には、リベラル派には耳が痛いものの、受け入れ難い論点がある。それはマイノリティの権利を優先する「運動の政治」批判だ。『リベラル再生宣言』には詳述されていない論点もあるので紹介しておきたい。

第1に、アドボカシー目的の選挙参加の否定である。マイノリティ集団の利益を増進させるためには、民主党が選挙で共和党に勝つことを優先すべきだという考えだ。

ただ、アメリカのデモクラシーの特質に、予備選挙を介した政治参与の間口の広さがある。緒戦は広く報道されることから、政治的主張の伝播を目的とした「アドボカシー」候補も多数立候補する。これが草の根デモクラシーを支えてきたのも事実だ。

第2に、現実的な「票差」の扱い方だ。これはリラがアメリカは全体としては保守的な国であると考えていることに端を発している。とりわけキリスト教保守の影響力を過小評価してはならないとリラは示唆する。