安田純平氏へのバッシング、いちジャーナリストとして思うこと

過去の仕事を調べてみた
安田 峰俊 プロフィール

「拘束されすぎ」という批判に思うコト

また、ネットでは安田氏について「何度も拘束されすぎている」と書かれる例もある。これらを受けてか、保守系識者の間では嘉悦大教授の高橋洋一氏が「プロとしての準備の不足」、政治アナリストの渡瀬裕哉氏が「能力不足のジャーナリスト」、自民党の馳浩・衆院議員(自民党)が元大阪市長の橋下徹氏のネットテレビ番組内(Abema TV「NewsBAR橋下」10月25日放送分)で「生きていてくれて嬉しいが、3回も行ってるんだからバカの上塗りと一緒、と思う」などと断じている。

 

だが、調べてみると安田氏が現地で武装勢力に拘束されて消息を断った例は、04年のイラクでの数日間と、今回のシリアの2件だけだ。

彼が他に被ったとされる数回の「拘束」は、イラク軍や地元の警察によるものである(しかもキャリア最初期の03年に集中している)。官憲による外国人の拘束は、拘束の長期化や身代金の要求、処刑などの深刻な事態に至る可能性が相対的に低く、何をやるかわからない武装勢力による拘束とは根本的な性質が異なる。

(ちなみに、海外取材で官憲による尋問やパスポートの一時没収は日常茶飯事だ。はばかりながら私自身も、覚えている限りで11年1月に雲南省で1回、14年3月に新疆ウイグル自治区ポスカム県で1日に4回ぐらい、15年5月に陝西省富平県で1回、中国の公安や武装警察に「プチ拘束」されている。陝西省の例については、近著の『さいはての中国』をご覧いただきたい)

中国陝西省富平県にある習近平の父・習仲勲の墓。私は外国人立入禁止のこの墓の敷地に入り、中国の公安に「拘束」されたことがある(『さいはての中国』72p参照)

武装勢力による拘束も、戦場ジャーナリストの間では珍しくない。例えば常岡浩介氏は過去にアフガニスタンとクルディスタンなどで現地武装勢力らに2〜3回以上拘束されており、後藤健二氏(故人)は15年にシリアでIS(イスラム国)に拘束・殺害されている。漫画家の西原理恵子氏の元夫の鴨志田穣氏やその師匠格の橋田信介氏も、90年代にカンボジアでポル・ポト派に拘束されている。

拘束どころか亡くなる例も多い。04年に橋田信介氏がイラクのバグダッド〜サマワ間を移動中に武装勢力に襲撃されて死亡、07年に長井健司氏がミャンマーの反政府デモの取材中に政府軍兵士らしき男から至近距離で撃たれて死亡しているほか、12年には山本美香氏がシリアで銃撃されて命を落としている。彼らはすべてベテランのフリージャーナリストだ。

「プロ」でも拘束や死亡のリスクあり

上記のそうそうたる顔ぶれを見れば、安田氏の拘束回数が特に多いわけでも、危機管理能力が他の同業者と比べて甚だしく欠如しているわけでもないのは明らかだろう。

なお、安田氏は今回の拘束直前の15年3月、対談記事「私たちはなぜ、戦場へ向かうのか」(『婦人公論』No.1420)で、イラク戦争のリポートで知られる綿井健陽氏、ISへの潜入取材歴を持つ横田徹氏と以下のようなやり取りをしている。

横田 目の前に爆弾が落ちたことがありました。僕も足を負傷していたんだけど、周りの人たちのケガがひど過ぎて、しばらく自分のケガには気がつかなかった。(略)

安田 自分は最近、防弾チョッキを新調しました。ヘルメット込みで10万円ぐらいのものを。現地の診療所でも簡単な治療ぐらいはしてくれるのですが、貴重な包帯を使わせるのも申し訳ない。防げるケガはなるべく防ぎたいと思って。

綿井 メディアの中では、民間の警備会社に委託するというケースもありますね(略)。安全を金で買うか、地域社会にそっと紛れこむか、どちらかを選ぶしかない。でもそれも結果論で、警備を付けたから狙われる、丸腰だから狙われるという両方の可能性がある。

現地の人が大量に誘拐されたり虐殺されたりしている場所を取材する戦場ジャーナリストは、たとえ一流のプロでもけっこう捕まるし殺されるのだ。実に恐ろしい話だが、彼らの業界では「よくあること」とも言えるのである。一般人(心情的には私自身もそうだ)の感覚としては「なんでそんなヤバイ場所に行くんだ?」という気もしてくる。

だが、平和な社会の常識からそのくらいかけ離れた怖い場所だからこそ、誰かが足を踏み入れて肌感覚の悲惨な現実を伝え、事態の解決を喚起する必要があるとも言える。小なるは中学生のイジメ問題から、大なるは特定民族の虐殺に至るまで、第三者に伝えられなかった悲劇は結果的に「起きていないこと」と同じにされてしまうからである。