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安田純平氏へのバッシング、いちジャーナリストとして思うこと

過去の仕事を調べてみた

「知る権利」を言うばかりではなく

最近、私はどうも心がザワザワしている。理由はまこと理不尽だ。複数のニュースアプリの通知で、下記のような文章が何度もスマホに送られてくるからである。

・解放された安田さん「地獄だった」
・安田さんに「自己責任」バッシング

さらにツイッターを開くと、この「安田」氏は「ジャーナリスト失格」だの「ウソツキ」だのと散々な言われぶりである。私はたまたま彼と同姓の同業者であるせいで、今回の安田氏の解放にあたり、彼の親族を除けば日本で最もビビっている安田となっている。

念のために確認すれば、私は中国ルポライターの安田峰俊(36)であり、昨今話題のフリージャーナリストの安田純平氏(44)とは面識も血縁関係もない(少なくとも「ひいひいじいさん」以降の縁者でないことは100%確実だ)。

 

また、同業者とはいえ、イスラム圏でのハードな戦場ジャーナリズムに身を浸す安田氏と、B級ネタも含めた中国関連記事を得意とする私に業務上の接点はない。後述する寄稿媒体を見ても、おそらく安田氏と私は仕事のスタンスも政治信条もかなり違う人だろうと思う。

なので、私は本件が起きるまで安田氏について「中東で拘束された人」以上のことはよく知らなかった。彼が立派なジャーナリストなのか、それともネットで叩かれている通りの怪しげな人なのかを、確信を持って判断できるだけの予備知識も持っていない。

安田純平氏のツイッターには、心無いバッシングが殺到している。

さらに軽く調べてみても、安田氏に言及する大手メディアは「知る権利」がどうだといった大きな話が多く、具体的に彼の何がすごいのかの説明は少ない。対して彼を叩くネット世論や一部の識者には、ツイッターの本人発言の切り貼りやネット上のコピペを根拠にした印象論や、イデオロギーありきの主張が多いように見える。

本来、プロを評価する基準は、SNSのつぶやきや本人の属性(政治志向・社会的地位・経歴・家族関係・出自など)ではなく、本業の成果であるべきだ。だが、世間では彼が本業で何をしているかを具体的に示さないまま毀誉褒貶の議論だけが先走りしているため、私は彼をどう評価していいのかわからないのだ。

そこで本稿では、ひとまず安田氏が過去にどんな仕事をしていたかを調べた上で、彼への批判がどこまで的を射ているのかを考察してみることにした。

彼の経歴を精査する

まず、安田氏のプロフィールを簡単に確認しよう。彼は一橋大学卒業後に信濃毎日新聞に入社して6年間勤務した後、03年にフリージャーナリストになりイラクで取材を開始。04年春にイラクで現地武装勢力に拘束されていた日本人人質3人に続くように、イラク国内で別の武装勢力に拘束されたが4日で釈放されている。

帰国後、04年に『囚われのイラク』(現代人文社)、『誰が私を「人質」にしたのか』(PHP研究所)を刊行。その後もイスラム圏で取材を続け、2010年にイラクの軍事関連施設内での料理人としての就業生活を描いた『ルポ 戦場出稼ぎ労働者』(集英社新書)を刊行する。

やがて、内戦の勃発とともにシリアへ取材の舞台を移した後、2015年6月に行方不明。同年末に現地武装勢力に拘束されたことが明らかとなり、画像やビデオ映像が何度か公開されてから、今年(18年)10月23日に釈放が確認された――。とまあ、そういう経歴である。

フリー転身直後の03年8月、安田氏が『創』に寄稿した記事。表題の通りイラク戦争の取材のために信濃毎日新聞社を退社している(『創』03年8月号より)。
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上記のWikipedia的な概要から抜け落ちた安田氏の仕事について、国会図書館のサイトで検索してみると、04年から15年にかけて、対談などを含めて『婦人公論』『週刊金曜日』『世界』『論座』などの商業媒体に寄稿された本人名義の記事が20本以上、『マスコミ市民』など地味な媒体での発表も含めれば30本以上が確認できた。中東関連の他のジャーナリストの著作の構成にも参加している。

ほか、12年8月11日付けの『報道特集』(TBS)で、安田氏が撮影した長尺の戦場映像「内戦のシリアに潜入した日本人ジャーナリスト」が放送されている。私がTBSの同番組担当者に尋ねてみたところ「自分の知る限り、いわゆる戦場ジャーナリストで安田氏の実力を疑う人はいない」とのことで、一線級の仕事として評価されていると見ていい。

彼はキャリアスタートの時点で新聞社に6年間勤務し、南アルプスのし尿処理問題や脳死肝移植問題などの調査報道に従事している。プロの記者として通用する水準の取材・執筆・撮影のノウハウは充分に身についていると考えるべきだろう。英語はもちろん、イラクでの料理人生活を通じてアラビア語もかなり話せるようだ。

安田氏について、ネットでは「自称ジャーナリスト」みたいに書かれる例があるが、経歴やスキルを見る限り、むしろ海外事情が専門の日本人ジャーナリストとしてはかなり優秀と見ていいだろう。付言すれば、日本には現地語がまったくできないのに中国通や韓国通として振る舞っている評論家やジャーナリストがいくらでもいる。