ブレグジットを大きく揺るがす「アイルランド国境問題」とは何か

重大局面を迎えた離脱交渉の行方
笠原 敏彦 プロフィール

北アイルランド和平の構造

北アイルランド和平は、ガラス細工のように繊細で複雑な取り決めの上に維持されているものだ。和平合意の内容から、その構造を見てみよう。

まず押さえておきたいのは、この合意は、イギリスとアイルランドがともにEU加盟国(1973年に同時加盟)であり、EU統合に沿って両国の統合も進んだことによって初めて可能になったということだ。

合意により、アイルランドは憲法を改正し、北アイルランドをめぐる領有権の主張を削除。両国は、最大の対立点である帰属問題について北アイルランド住民の将来の「多数派の選択」という自決権に委ねることで事態の打開を図った。

 

北アイルランドの人口構成は、プロテスタント系が50%強、カトリック系が40%半ばと拮抗している。

カトリック系の方が出生率は高いため、北アイルランドは将来的にアイルランドへ帰属を変更する可能性が担保されているのである。

また、和平合意に基づく政策的ポイントの一つは、アイルランド島の南北の統合を推進することであり、自治政府の政策決定におけるアイルランド政府の役割が認められた。

イギリス側が大きく譲歩したように見えるが、イギリスには、EU統合が深化する中で長期的には帰属問題は大きな争点ではなくなるという期待があった。

以上をまとめれば、北アイルランド和平とは「オープン・ボーダー(開かれた国境)」を前提に成り立っているものだということである。

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自治の制度面では、「政治権限の共有(power sharing)」という特殊な制度が導入されている。自治議会の議員は、ユニオニスト(イギリスへの帰属を支持。主にプロテスタント)なのか、ナショナリスト(アイルランドへの帰属を支持。主にカトリック)なのか自らの立場を明示しなければならない。

その上で、両派のコンセンサスがなければ重要決定は行えない議決ルールを採用。首相と副首相は両派の最大政党から選ぶ連立政権とすることを取り決めている。

実際、北アイルランド自治政府は2017年1月以来、内政問題をめぐる対立からナショナリスト側が副首相の指名を拒否し、自治政府は機能を停止したままだ。

和平プロセスは1998年の合意以来、浮き沈みを繰り返し、今も崩壊の危機と隣り合わせの状況が続いているのである。