セックス、ドラッグ、インターネットの果てに見つけたモノ

駄青春日記~マヌケな地獄の黙示録~⑤
王谷 晶 プロフィール

文章でだけなら戦える

そこである日、いつものように本の感想を書いた。前々から好きだった作家の新作で、面白かったとか主役がかっこよかったとか、そんなごくフツーの感想だった記憶がある。しかしそれをアップした数日後、なんとその作家本人からメールが届いた。「感想ありがとう、日記面白いね」みたいな、ファンレターへのお礼状のような感じだった。

そこからその作家、Xさんとネット上での交流が始まった。msnメッセンジャーやサービスが始まったばかりのmixiなどで、映画や本の感想、創作についての話や世間話を週に一回くらいの頻度でチャットするようになった。小説を書いていると言うと、「とにかく書き続けなさいね」というシンプルなアドバイスをいただいた。 

Xさんは男性だ。テキストベースでも、男性とこんなにたくさん言葉を交わしたのはこれが初めてだった。女友達とするのとまったく変わらない話を、変わらない調子でずっと続けることができた。

そしてあるとき、ほんとうにふいに、やっと理解したのだ。男も人間なんだ。クソなセクハラ野郎やゴミクズ性犯罪野郎もいるけど、たっっっっ(中略)っっっっくさんいるけど、それでも人間なんだ。中にはちゃんと会話ができる人もいるんだ。目ウロコの瞬間だった。

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その後サイトを通じて友達も増え、どんどんネットにのめり込んでいった。テキスト主体のインターネットの世界でかつてなくイキイキしている自分に気付いた。出来ないことだらけで何もかもぱっとしないけど、文章でだけなら戦える。テキストという土俵なら上がれる。ネットは、初めて自分を「強い」と思えるフィールドだった。

しかしどんなにアクセスカウンターが回ろうがBBSにカキコが増えようが、現実の自分は高卒の無職の実家暮らしだ。酒の量が増えはじめた。

やがて歯を磨いたり着替えたりということがものすごくおっくうになって何をするにも異常に時間がかかるようになったり、眠れなくなったりひたすら涙が出たりしはじめ、親に頼み込んで心療内科まで連れて行ってもらった。まあ、鬱傾向ですね。

ということで睡眠導入剤や向精神薬が出された。が、最悪なことに酒が止められなかった。でかいペットボトル焼酎をこっそり買って、1週間くらいで空けてしまう。薬も普通に飲んでいる。

 

ほどなくしてあれだけ毎日更新していた日記や同人サイトが書けなくなった。最後の方はラリったまま支離滅裂な文章を何度もアップしそのまま更新停止になったので、リアルタイムで見てた人は怖かったろうなと思う。

正直、このへんの時期のことは記憶がだいぶ曖昧だ。よく死ななかったなと思う。自殺未遂も少なくとも2回はしてる。でも死ななかった。内臓とかいろいろ人より丈夫なのかもしれない。

そんなこんなではっと気がつくと、26歳になっていた。髪が抜けてカッパ状態に薄くなり白髪だらけになり、体重は40キロ近く増え歩くのもおっくうで、歯も肌もボロボロで、全身自傷の傷跡だらけで、視力が落ちて、無一文で、しかしそれでも生きていた。

きっかけがなんだったのか全く思い出せないのだが、今生きてるんなら、まだ生きようと急に決めた。そこから1年かけて薬を徐々に減らし、酒も減らし、27歳になって近所のスーパーでアルバイトを始めた。

裏方仕事だったが、同僚のおばちゃんおっちゃんたちとなぜかとてもスムーズにコミュニケーションができるようになっていた。工程がいくつもある仕事もほとんどミスなくこなせるようになっていた。なぜか分からない。一回死んで生き返ったような気分だ。酒と薬が脳みその「あかんとこ」を溶かしてしまったのかもしれない。変に前向きな気分だった。

もう一度東京へ行こう。やれる仕事はなんでもやって、今度こそ自立しよう。そう思った。