沖縄の伝統まで「中国脅威論」を煽るために利用されるこの現実

「龍柱」は中国への服従を示す象徴か?
安田 浩一 プロフィール

「中国でも、日本の脅威を煽る者はいます」

中城村の県営団地。10月下旬、ここで地域の秋祭りがおこなわれた。

「カレーライスおいしいよ。あ、沖縄そばもあるからね」

手作りの屋台が並ぶ公園で、集まった子どもたちに声をかけてまわっていたのは中国・北京出身の張世險峰さん(49歳)だ。

 

張世さんは団地の自治会役員を務めている。

「お祭りはいいですね。こうして地域の人が交流できる貴重な機会ですよ」

お年寄りの手を引き、子どもたちにカレーをふるまい、会場警備も行う。とにかく忙しい。

張世さんが留学生として沖縄に来たのは93年だ。学生時代に地元の日本人女性と結婚し、そのまま沖縄に居を定めた。いまは国籍も日本に変えて、旅行代理店を経営している。

張世さんにとって沖縄は誇りだ。

「美しい自然。独特の文化。これを世界中の人に紹介したくて旅行業に就いているんです」

そんな張世さんも、中国に対する風当たりが強くなっていることは十分に理解している。地域に溶け込んだ自分のことを「工作員」だと指摘するネットの書き込みも目にしたことがある。

「バカバカしいから反論もしません。中国でも、日本の脅威を煽る者はいます。どこも同じ。ですから、私がどう見られているかということよりも、私が地域の中でどう生きているか、という問題の方が重要です」

地域の自治会役員もつとめる沖縄在住中国人の張世さん

9月におこなわれた中城村議選に張世さんは出馬した。中国出身者が村議選に挑んだのは県内でも初めてのことである。

「選挙カーも持っていないから辻説法を繰り返したんです。観光振興などを訴えました」

結果は次点で落選。それでも、予想以上の支持が集まったことに驚いている。

「日本国籍を持っているとはいえ、私はまだ外国人だとみられることも多い。それでも、地域を愛する気持ちは誰にも負けていないつもりです。たぶん、次回の選挙にも立候補すると思います。それは中国のためじゃない。この村のために、尽くしたいと思っているからです。それに、もしも私が議員になることができたら、中国に対しても議会制民主主義のすばらしさを伝えることができるじゃないですか」

月明かりの下、エイサーの太鼓が響く。張世さんも肩を揺らし、足でリズムをとる。
中国人であり、日本人であり、そして張世さんは沖縄人でもある。全身にアジアのダイナミズムが刻印されている。

そう、沖縄も同じだ。生きるために、島の豊かさを守るために、近隣諸国と独自の外交を続け、文化の交流を重ねてきた。

「知る。理解する。それだけでいい。それをしなくなったとき、偏見の壁ができる」

張世さんはそう強調した。

人々が躍る。指笛が鳴る。沖縄は今日も躍動している。

中国脅威論は沖縄の停滞を招くだけではないのか。沖縄のリズムに私のからだも揺れながら、そう思わざるを得なかった。            (終わり)

11月26日(月)19時30分より、本記事の著者・安田浩一氏とノンフィクションライターの石戸諭氏によるトークライブを開催します。詳しくは以下のリンク先をご覧ください。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58129