「沖縄が中国に乗っ取られる? 現実的な話じゃないね。それは即ち、戦争ってことだ。ありえないですよ」
意外な言葉だった。
私にそう答えたのは、石垣市議の仲間均さん(69歳)だ。
仲間さんは沖縄でも有数の"右翼市議"と呼ばれることが多い。
強硬な「反中国」姿勢で知られ、特に尖閣諸島への思い入れは強い。
「尖閣だけは絶対に守る」。そう断言する仲間さんは、これまで尖閣に上陸すること16回。そのたびに海上保安庁に捕まり、これまで13回も書類送検された。
元空手家という風貌も相まって、コワモテ右翼を感じさせるには十分なのだが、そんな仲間さんですら、昨今の差別的な中国脅威論には懐疑的だ。
「結局、中国人に対する差別が根底にあるようにも思う。私は日本の領土である尖閣を脅かす中国という国家、軍に対してはこれからも強硬派であり続けるが、中国人に対しては敵意などありません。沖縄は琉球の時代から中国文化の影響を受けてきました。それは否定すべきことじゃないですよ」
流布されている現実味を持たない中国脅威論はただの偏見であり、それだけは許容してはいけないのだと仲間さんは何度も繰り返した。
「中国脅威論は常に基地問題とセットになって語られる」と指摘するのは、沖縄在住のジャーナリスト、屋良朝博さんだ。
「その手の話を煽っている人々は"怖い中国"を強調し、だから米軍基地が必要なのだと訴える。具体体には辺野古問題を政府の思惑どおりに進めるために、持ち出されているに過ぎないと思いますよ」
中国脅威論を扇動することで、辺野古の新基地建設が正当化される。つまり、脅威は沖縄県民のなかから生まれたものではなく、常に「本土」の側から吹き込まれるという構図だ。
たしかに、沖縄で中国脅威論が猛威をふるうようになったのは、辺野古での新基地建設が決まった以降である。そして沖縄の民意は先日の知事選の結果をみるまでもなく、常に政府決定に「NO」の決断を下してきた。
沖縄が中国に占領されてもかまわないのか──中国脅威論は沖縄にとって、ときに恫喝のように響く。
そもそも新基地建設が辺野古でなくてはならない理由を政府が明確に示していない。
「移設先となる本土の理解を得られない」というのが、政府が繰り返してきた見解だ。中国脅威論や地理的優位性が、それを補強する。
「結局、戦場としての沖縄を必要としているのが本土の政治家なのではないでしょうか。地理的優位性を訴え、沖縄を犠牲にすることしか考えていない。考えてもみてください。こんな小さな島が戦場になったら、沖縄はおしまいですよ。ハードパワーで沖縄を守ることなんてできるわけがない」
屋良さんと会ったのは、沖縄最大のショッピングモール「ライカム」(北中城村)の中にあるカフェだった。
「ライカム」とは、かつてこの場所にあった琉球米軍司令部 (Ryukyu Command headquarters) の通称である。
「周囲を見てくださいよ。ここでは米軍人も、中国人観光客も、そして地元の人も、何の争いもすることなく買い物を楽しんでいる。これが沖縄のダイナミズムだと思いますよ」