沖縄の伝統まで「中国脅威論」を煽るために利用されるこの現実

「龍柱」は中国への服従を示す象徴か?
安田 浩一 プロフィール

「龍柱」を徹底的に調べてみた

それでは、「龍柱」にはそのような意味が込められているのか。

当然ながら市の担当者は「そんな意図があるわけない」と全否定だ。

 

そもそも沖縄では「龍柱」はけっして珍しい存在ではない。

以下に写真を示そう。

例えば、これは空港と市内を結ぶ国道58号線、国場川にかかる明治橋の龍柱だ。橋の両端にそれぞれ向き合うような形で建てられている。

明治橋の龍柱

県庁舎の裏側にも一対の龍柱。さらに県警本部の正面玄関前にも。

「龍柱」が侵略を手引きするシンボルなのであれば、まさか県警本部の玄関に鎮座することはないだろう。

県庁舎の龍柱(左) 県警本部の龍柱(右)

それだけではない。国際通りの菓子店前にも、あるいは米軍の敷地内にまで「龍柱」が置かれている。

「龍というのは、かつては権力の象徴のように思われていました。中国から伝わったのは事実でしょうが、沖縄でも神聖な存在として琉球国の時代から定着しています」

そう話すのは首里城公園を管理する沖縄美ら海財団の学芸員だ。実は、首里城には33体もの「龍柱」が存在する。

「1768年に記された首里城の設計仕様書ともいうべき『寸法記』にも、正殿に置かれた龍柱の絵がしっかり記録されています。これだけの歴史を持つのですから、龍柱は沖縄の文化といってもよいでしょう」

正殿前に、あるいは王座に。城内、いたるところで「龍柱」が荘厳な姿を見せている。

首里城正殿前の龍柱
首里城王座の龍柱

そう、「龍柱」はシーサーと並んで、紛うことなき沖縄の文化なのだ。

中国の影響を受けているから許せない、とするのであれば、漢字や仏教だって排斥せざるを得なくなる。県内各所、一般の民家に守り神として置かれているシーサーもそうだろう。シーサーは古代オリエントから伝わった獅子が源流とされているが、これも東方世界への服従だというのだろうか。

「龍柱」に関わる費用を無駄遣いだとするのは十分に理解できる。だが、これを中国脅威論と結びつけるのは、どう考えても、こじつけだ。そもそも沖縄文化として定着している「龍柱」を侵略のシンボルと考えるのは、沖縄への理解が乏しい証拠でもある。

実は、「龍柱」を中国脅威論と絡めて煽ったのは、県外の人間ではないかという"疑惑"がある。前述した小冊子も東京の幸福実現党本部が制作したものだ。

前編で登場した、沖縄国際大学教授の佐藤学さんも言う。

「税の使い道という観点から言えば、龍柱建設はあまり褒められたものではないと思います。観光名所にしたいというのであれば、それこそ龍の口から火を噴かせるくらいのことをすればいい。

でも、本当の問題は、そんなことまでをも中国脅威論の根拠としてしまう日本社会の空気感ですよ。生活行事にしろ、食べ物にしろ、中国の影響を受けたものなど挙げたらきりがない。結局、中国の侵略から守ってくれるのは米軍基地しかないという結論を導き出すために、こうしたデマが流布されているとしか思えません」