Photo by iStock

実は見分けるのがとても難しい…老人性うつと認知症、その違い

薬を間違えると命にかかわる

最悪の事態

「老人性うつの場合、きちんと治療をすれば、治癒します。しかし、診断を間違え、適切な治療をせずに放置してしまっていると、最悪の事態を招いてしまうこともあるのです」(「ストレスケア日比谷クリニック」院長の酒井和夫医師)

都内在住の高田晋介さん(66歳・仮名)は、妻(64歳)と二人暮らしをしている。3年前に3人の子どもたちが独立。以来、専業主婦だった妻はことあるごとに「寂しい」と漏らしていたという。

「妻はこれまでずっと家事と育児を懸命に担ってくれて、趣味などもありませんでした。子どもたちがいなくなり、心にポッカリ穴が開いたような気持ちだったのかもしれません。

2年前、妻の40年来の親友が亡くなってしまってから、随分ふさぎ込み、それ以降、物忘れがひどくなったんです。

初期の認知症かと思い、地元の病院の『もの忘れ外来』に連れて行き、しばらく処方された認知症薬を飲んでいました。しかし、一向に症状はよくならず、掃除や洗濯などの家事もほとんどやらなくなりました。

急に口数が減り、『髪がうまくセットできない』などと言って、外出もしないようになった。次第に、一日に何度も『生きているのが辛い』『死にたい』と言うようになったのです」

「これはただ事ではない」と焦った高田さんは、妻を連れて大学病院の心療内科を受診。そこで老人性うつの可能性が高いと診断されたのだ。『老人性うつ』などの著書がある精神科医の和田秀樹氏が話す。

「老人性のうつを発症しているのは、65歳以上の人たちの中の約5%と言われています。一方で認知症は15%ほど。違いとしては、認知症は加齢とともに割合が増えますが、うつ病は増加しません」

認知症は原因疾患が70種類を超えると言われるが、よく知られているアルツハイマー型と脳血管障害型で全体の8~9割を占める。認知症薬による治療は基本的には完治は難しく、進行を遅らせる、症状を一時的に緩和することが目的となる。

一方で、うつ病は、軽い症状であれば、抗うつ剤を服用し、3ヵ月程度で治るケースも多いという。

しかし、誤診された高田さんの妻のように、両者の症状は、非常に似通っている。精神科医の井貫正彦医師が話す。

「老人性のうつ病と認知症は見分けることが非常に難しい。物忘れ、集中力の低下、不眠など、どれも両者に共通した症状です。

このため、採血や頭部のCT検査、うつ病と認知症それぞれのチェックリストなど、さまざまな検査を行います。それらを踏まえて、どちらの可能性がより高いか、暫定的に判断を下すこともあります」

 

専門医でも見分けることが難しいため、両者が混同されたままになっているケースが増えている。

パターンとしては、「認知症だと思っていたら、実は老人性うつ」が圧倒的に多いという。原因は、「うつ病は働き盛りの年齢の人間がなるもの」という思い込みだ。高齢者こそストレス量が多いと、前出・井貫氏は話す。

「よくある心理的ストレスの原因として、健康問題、家庭問題、経済問題、仕事などが挙げられます。高齢者は病気などの健康問題が次々と出てきますし、家庭内でも離婚、老々介護、死別など様々な問題が起きる年齢です。

年金や医療費などおカネの悩みも増えますし、退職すると、役割の喪失という悩みも生まれます。実は高齢者は心理的ストレスが非常に多い年代なのです」

若い頃と違って身体は思うように動かない。日々のストレスが積み重なり、そこに親しい人が亡くなったなどのきっかけがあると、一気に老人性うつを発症することがある。

まずは、高齢者こそうつ病に注意しなくてはいけないということを知ったほうがいい。

「両者の症状は似ていますが、進行はうつのほうが早い。急にしゃべらなくなったなどの場合には、うつを疑ったほうがいいでしょう」(前出・酒井氏)