「人生100年時代」のまやかし。年金は繰り上げてこそ価値がある

「損益分岐点16年8か月」に惑わされるな!
沢田 浩 プロフィール

年金事務所は「繰り上げ」を考え直せと促した

山田さんは、年金受給年齢が平成37年に一律65歳となる際の移行措置対象となる世代。つまり、昭和30年4月2日~昭和32年4月1日に生まれた世代であり、この場合、厚生年金の報酬比例部分については62歳の誕生日から得ることができる。

本来、年金を繰り上げ受給する際は、会社員などの場合、65歳から得られる老齢厚生年金も合わせて繰り上げなければならない。 

だが、山田さんの場合は移行措置で、65歳以前の年金である特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)は62歳から受給資格を得ていた。このため、繰り上げるのは、65歳からの支給となっている国民年金相当の老齢基礎年金部分だけでいい。この点も繰り上げを決めた理由だ。

 

つまり、

「老齢基礎年金部分を24か月繰り上げたのですが、そもそも満額でも年に77万円。学生時代に支払っていなかった期間もあるので、おおよそ年に70万円の年金となります。これが、1か月0.5%×24か月、つまり12%減額されて、生涯61万6000円ほどと変わります。年に8万円ほどで、月にすると7000円の差なら、いまのうちからもらっておこうかとなりました」(山田さん)

この結果、ざっくりいうと、山田さんの今後の年金額は月額20万円ほどになる。65歳まで待ったとしても21万円になる程度の差だった。

ところが、年金事務所の対応は、繰り上げの再考を促すものだったという。

「年金事務所では、“本当にいいんですか? 2年繰り下げると、年に12%も年金額が減りますよ。一度手続きをとると、変更はできません。だから、生涯減額となるので、あまりお勧めできないですね”と繰り返すのです。それで、実際どれくらい損をするのか試算してもらうと、私の場合、減額されるのは想定どおり年に8万円ちょっとでした。

しかも2年繰り上げても、79歳8か月までの総受給額は、65歳から受給した場合とまったく同じということもわかりました。ほぼほぼ80歳だし、そこから先が損すると言われても、先の人生があるのかどうかもわからないしね……」 (山田さん)

つまり、2年繰り上げの場合も、65歳からの通常受給の場合でも、得られる年金累計額の損益分岐点は、79歳8か月ということがわかる。

繰り上げ受給の場合、60歳からに繰り上げても、63歳からとしても、受給開始後16年8か月までに受け取る総額は、その年齢時点に65歳からの本来受給で得られる累計額と同じになる設計となっている。ようするに、繰り上げは16年9か月経過後から、本来受給より損となる仕組みだ。

補足すると、老齢基礎年金を繰り上げ受給する場合、1か月繰り上げるごとに給付率が0.5%ずつ減額される。1年繰り上げると6%と減額され、2年繰り上げの場合では12%。5年繰り上げて60歳から得ようという場合は、30%の減額となる。数字を並べてみると、たしかに給付率の下げ幅は小さくない。

対して、繰り下げ受給の場合、1か月繰り下げるごとに給付率が0.7%ずつ増額となり、1年繰り下げると8.4%増額される。2年繰り下げの場合では16.8%、5年繰り下げて70歳から受給する場合は42%も増え、年金年額70万円だった人ならば、99万4000円の受給額となる。