Photo by iStock

夫の愛人に財産を渡したくなくて「不正」を働いてしまった妻の話

新・争族の現場から

人間、長い人生を歩んでいく中で、頭ではわかっていても、どうしても良くない道に入ってしまうことがあるものです。しかしそんな時こそ「引き返す勇気」が必要なのではないか。

自分の傲慢さに気づく謙虚さが必要だし、そこで冷静さを失うことは後々大きな損失に繋がりかねない。そんなことを思い出させてくれる争続の事例を紹介したいと思います。

 

長年尽くしてきた夫に知らない妹が…

今回の主人公は田中さん。当時70歳で、都心部の一流オフィスビルでクリニックを経営しているドクターです。

家族は奥さまと、2人の息子がいます。場所柄毎日多くのビジネスマンが、体調不良や花粉症の薬をもらうためにやってくるため、経営的にも順風満帆と言っていいでしょう。

Photo by iStock

また、彼は医者という職業と同時に、高校時代の同級生が経営する一流企業の監査役も務めていました。そんな富と名声の二つを兼ね備えた彼でしたが、ある夏のこと、突然帰らぬ人となってしまいました。週末の休みを利用してひとりで海釣りに出かけ、遺体で発見されたのです。

警察からは事件性はないといわれましたが、家族らは「あの事件がきっかけで突発的に自殺してしまったのではないか?」と密かに思っています。

あの事件とはなにか。

実は田中さんには家族も知らない秘密を長年抱えていました。それが判明したのは10年前に田中さんの母が亡くなったときのことです。

母の相続手続きはかなり大変でした。読者の方もご存知かもしれませんが、相続時の手続きはとても面倒です。社会保険の手続きからはじまり、葬儀や法要の手配の一切、それらが落ち着いたころには銀行や不動産の名義変更も待っています。

いつも仕事で忙しい田中さんは、典型的な亭主関白で、家事のほとんどすべてを専業主婦である妻に丸投げするのが常でした。しかし母の相続手続きに関しては、なぜか丸投げすることをせず、すべて田中さん本人でやろうとしました。

妻としても、若干違和感を覚えながらも、いつもは一方的に仕事を頼まれるだけなので、今回は助かったわと、思っていました。しかし、司法書士からの電話で妻は田中さんがなぜ自分に任せないのか、を知ることになりました。理由は、秘密を知られたくないためだったのです。

具体的には、それまで聞いたことのない義母の娘の存在でした。田中さんに電話をした司法書士は、書類の不備に関して留守電を残していました。

「妹さんの印鑑証明書を取ってくださいね」という内容です。これを聞いた瞬間、妻は胸騒ぎを覚えました。田中さんには兄と弟はいるものの、妹がいるなどという話は一度も聞いたことがありません。しかも、その妹の印鑑証明が欲しいと司法書士はいっている……と言うことは、相続にも関わっている可能があるのは間違いありません。

不審に思ったものの、長年の夫婦関係から田中さんに直接問いただすのを躊躇った妻は、田中さんと日ごろから仲のよくなかった弟に真相を確認することにしました。