地上波とネットテレビの「深刻な断絶」〜歴史を振り返ってみると…

なぜハラスメントが横行するのか
飯田 豊 プロフィール

「めちゃイケ」とBPOとの応酬

「めちゃイケ」とBPOとの因縁は、ずいぶんと古いことが知られています。

2000年には同番組の「七人のしりとり侍」というコーナーに対して、いじめを肯定する暴力的な内容であるとの視聴者意見が多数寄せられ、BPOの前身のひとつである放送番組向上協議会に設置されていた「放送と青少年に関する委員会」の審議事案となりました(BPOの設立は2003年)。

委員会との度重なるやりとりを踏まえて、「めちゃイケ」は(批判を受けていることをネタにしつつ)演出面での改善を試みましたが、最終的にコーナーを打ち切ることを決めました。

ちょうどこの頃、青少年に対するテレビの影響が活発に議論されるようになったのですが、1997年以降に発生したいくつかの凶悪な少年犯罪をきっかけに、いわゆる「Vチップ論争」が勃発したことがその背景にありました。

Vチップとは、表現規制規準(レイティング)対象の番組の受信を制限するために、受像機に取り付けられる半導体のことです。緊迫した政治的攻防を経てVチップ導入は回避されましたが、放送局はさらなる自主規制の徹底を求められるようになりました。

 

そして2009年11月には、BPO放送倫理検証委員会が「最近のテレビ・バラエティー番組に関する意見」(以下、「意見書」)を公表しています。この意見書のなかに具体的な番組名は記されていないものの、「めちゃイケ」の企画や演出がいくつも批判されているのは明らかでした。

そこで、翌2010年2月27日の「めちゃイケ」では、いじめや差別につながると指摘された演出や、安全性に疑問があると指摘された演出に対して、岡村隆史さんが身をもって再検証するという企画が放送されました。

意見書で投じられた批判に向き合う姿勢は、番組本編のなかで示せる限りにおいて、きわめて真摯な対応だったと思います。

〔PHOTO〕gettyimages

その2日後の3月1日、フジテレビは「私たちのフジテレビ バラエティ宣言」を発表しました。

「愛がなければテレビじゃない!安心できなきゃテレビじゃない!やっぱり楽しくなければテレビじゃない!」と謳ったうえで、現在の番組制作に間違いや訂正すべき点はないという基本的な考えを明らかにしました(2013年の審議において、BPO青少年委員会はフジテレビに対して、この宣言を意識した番組づくりがなされているのかどうかを問いただしています)。

さらにフジテレビは3月27日、テレビバラエティの歴史や功罪を検証する「悪いのはみんな萩本欽一である」というドキュメンタリー番組を放送しました。この番組の演出を手がけたのは、当時テレビマンユニオンに在籍していた是枝裕和監督です。

「いじめ」や「素人いじり」など、BPOの意見書が批判している諸要素をテレビに取り入れたのは、すべて萩本さんだったのではないかと仮定し、彼を被告人席に立たせる法廷劇です。

「テレビ芸」を確立したコメディアンの足跡を辿ることで、問題の根源を歴史的に紐解いていこうという野心的な試みでした(是枝監督は現在、BPO放送倫理検証委員会の委員長代行を務めています)。

テレビに対する批判に対して、テレビを通じて応酬するという対話の回路が、このときには確かに存在していました。

2010年当時、テレビの制作者にとっても出演者にとっても、インターネットはまだ“逃げ場”として必ずしも有望ではなく、批判の声に耳を傾け、落としどころを見出すしか道がなかったのです。