俳優・中村敦夫が、原発に警鐘を鳴らす舞台を演じる理由

「線量計が鳴る」は百回公演を目指す
高木 香織 プロフィール

元配管技師が、原発の抱える問題を明らかにしていく

「立見席しかありませんが、それでもよければ……」
その日、私は「線量計が鳴る」の公演会場にいた。150席ほどの会場は、すでにいっぱいだった。急きょ他の部屋から持ってきたらしいバラバラな形のイスが、会場の後ろの席に詰め込むように置かれている。それでも足らなくて、壁に張り付くように立っている観客たちがいた。
 
正面に黒づくめの初老の男性に扮した中村氏が、線量計をかざしながら現れる。放射能に反応すると鳴る「ピーピー」という音が響き渡る。舞台の芝居、というよりは会議室のホワイトボードの前に、一人の男が現れた……といった風情だ。それだけに、現実味を帯びている。


中村氏が帽子やジャンパーなどを黒ずくめで演じるのは、被害者の無念を移した亡霊をイメージしているからだ。

主人公は、原発が立地する福島県双葉市で生まれ育った元原発配管技師。線量計が立てる音とともに、
「原発の街で生まれ育ち、原発で働き、そして原発ですべてを失った」
とつぶやき、一幕四場、二時間の朗読劇が始まる。

 

福島第一原発で働いていた主人公は、原発事故後、酒浸りになる。賠償金を受け取っていることをなじられ、同郷の福島県の人々とけんかをして留置場に入れられてしまう。

原爆を落とされた日本に、なぜ原発がたくさんつくられてきたのか。
原発で利益を得ているのはいったい誰なのか。

あまりに多くの問題を抱えている原発。主人公はその一つひとつを告発していく。背景のスクリーンには、利権の構図などのデータが映し出される。人々が知るべき原発の知識が一通り解説されている。


主人公の名前は、最後まで明かされない。取材を重ねた「被害者たちの集合体」だからである。

これだけの内容を盛り込みながら、退屈しない。
「原発は安全だあって、自分も他人も騙くらかして飯ぃ食ってきた」


主人公は福島の方言で自分の人生を振り返る。観客はときに大きく頷きながら、静まり返って話に引き込まれている。効果的な間の取り方や抑揚のつけ方で話が理解しやすくなっているうえに、その立ち姿の美しさ。

うまい……さすがは名優だ。(誤解を招くかもしれないし、現地の方には失礼かもしれないけれど)芝居として面白い。

「原発の実態報告を優先すると客は飽きてしまい、話を聞いてくれない。物語を優先すると、伝えたい原発の実態が伝わらない。この葛藤に苦しみながら台本を仕上げた」
と中村氏は言う。

この朗読劇は、スクリーンと音響程度があればできる。中村氏が一人で道具を背負い、全国各地に出かけていく。10月後半ですでに44公演をこなし、さらに年内に10公演が予定されているという。


 北海道公演のときには、
「なんでこんな遠方の町に、中村敦夫さんが来てくれたんだ……?」

と、観客たちは半信半疑で朗読劇を見つめていたという。

子どもたちが口に長い枝をくわえるのが流行したという、大スターの木枯し紋次郎をリアルタイムで知っている年代の人には、まさに驚きであり感動だったことであろう。

公演は、各地の実行委員会の招きで行われる。営業化されていない、まさに手作りのあたたかい公演である。観客たちは、中村氏に何を期待しているのか?