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ネット世論操作で敵国を攻撃…フェイクニュースは「兵器」になった

国家の「統制」にも使われている

選挙に際して政権が対立候補者の悪評を流す、政府が野党の党首に関するデマを流して投獄する…世界各地でフェイクニュースを用いた「ネット世論操作」が日々行われていることをご存知だろうか。いまやフェイクニュースは新たな「兵器」と呼べる次元に達している。今月『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)を上梓する一田和樹氏が、ネット世論操作の現状を報告する。

世界48カ国に広がるネット世論操作

2018年9月30日、沖縄知事選の投票が行われ、玉城デニー氏が当選した。この選挙は基地問題の今後にとって大きな意味を持つと同時に、日本の選挙が世界の他の国と同様にフェイクニュースの戦場になったことが明らかにした。

複数の新聞で選挙期間中のフェイクニュースについての記事が掲載された。

中でも『選挙戦、ネットのデマ警戒』(朝日新聞、2018年9月16日)は選挙においてネットに流れるデマや誤情報が問題になっていることを取り上げ、知事選に先立って行われた名護市長選について、クリムゾン・ヘキサゴン社のSNS分析ツールを使って、選挙をターゲットにしてフェイクニュースが流され、それがSNS上で拡散する過程を分析した。

冒頭で「世界の他の国と同様に」と書いた。前回のアメリカ大統領選においてロシアが干渉していたことをご存じの方も多いだろう。

単純にSNSでフェイクニュースを拡散しただけではない。存在しない地方新聞のアカウントを作って、ふつうのニュースを流してフォロワーを信用させてからフェイクを流したり、フェイスブックに広告主として広告を出稿したり、さまざまな方法でアメリカの世論に影響を与えた。フェイクニュースを使ったネット世論操作と呼んでいいだろう。

ロシアの選挙介入は話題をさらった〔PHOTO〕Gettyimages

ロシアの干渉はアメリカだけに留まらない。イタリアではロシアの支援するポピュリズム政党が政権を取り、スペインではカタルーニャ独立分離騒動まで起こしている。

カタルーニャでは2017年10月1日、独立の是非を問う住民投票が行われたが、9月29日から10月5日にかけて、SNSに500万の書き込みが行われ、その30%は匿名のアカウントでもっぱらロシアのプロパガンダメディアであるRTやスプートニクの記事を流していた。これを受けてスペインのラホイ首相は「独立を煽るツイッターの投稿のほとんどはロシアによるものだ」と危機感を示した。ロシアの手は多くの国々に伸びている。

イタリアとスペインは氷山の一角に過ぎない。オクスフォード大学やロイターの研究者などが参加したチームによるネット世論操作の調査=『真実と信頼の挑戦 組織化された世界のネット世論操作の一覧(Challenging Truth and Trust: A Global Inventory of Organized Social Media Manipulation)』(2018年7月20日、Samantha Bradshaw & Philip N. Howard)によれば世界48カ国でネット世論操作が行われているという。

2017年に発表されたものと比べると1年で20カ国も増加した。世界の多くの国ではフェイクニュースを使ったネット世論操作が当たり前になっていると言っても過言ではないだろう。ここまで広がったのには理由がある。

 

フェイクニュースはもはや「戦争兵器」だ

いまや世界の戦争はわかりやすく軍事兵器を駆使するものから、国家のあらゆる活動を全てを兵器化する戦争=ハイブリッド戦に移行しつつある。経済、政治、宗教、文化、あらゆるものを兵器とし、相手国を支配し、操るために用いるのだ。

フェイクニュースはネット世論操作のひとつであり、ネット世論操作は「ハイブリッド脅威」と呼ばれる国家的な脅威のひとつである。そしてハイブリッド脅威に従来の軍事行為を加えるとハイブリッド戦となる。ロシア参謀総長ゲラシモフによると現在の戦争における比重は4:1でハイブリッド脅威の方が従来の軍事行為よりも高い。

表はNATOとEUが2017年に設立したハイブリッド脅威センター(The European Centre of Excellence for Countering Hybrid Threats)の『ハイブリッド脅威への対処(Addressing Hybrid Threats)』(2017年5月9日)に掲載されているハイブリッド脅威のリスト(じゃっかんの重複もある)をもとに作成した。

ハイブリッド戦においてネット世論操作の重要度は増している。その大きな理由は匿名性が高く、戦闘のあらゆる局面で利用可能、成功した際には大きな打撃を与えられ、そしてコストとリスクが少ないことがあげられる。ロシアがアメリカやヨーロッパで行ったことを見ればその威力はよくわかる。