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70歳すぎての全身麻酔には、こんな注意が必要です

手術は成功、でも目が覚めない 

麻酔=仮死状態

〈私は麻酔の必要性と、それに伴う危険性などについて十分な説明を受け、理解致しましたので、その実施に同意します〉

手術の前に患者は必ず、こういった同意書を書かされる。生命を左右する重大な決断。にもかかわらず、患者やその家族の多くは、麻酔の本当の怖さを知らない。あまりに無頓着であるとも言える。

手術は成功したが、患者は目を覚まさない――。実際にそういったケースがあると語るのは、フリーの麻酔科医・筒井冨美氏だ。

「日本麻酔科学会の調査によれば、全身麻酔中の総死亡率は0.05~0.07%とされています。しかし、私の経験上、70歳以上になればその確率はもっと上がります。

90代の女性がかかとの骨を骨折し、全身麻酔による手術が行われました。手術自体は順調に終わりましたが、手術室から出たとたん呼吸が停止。肺の血管に血栓(血の塊)が詰まって、肺塞栓を起こしたのです。

これは麻酔の合併症の代表的なものです。その後、呼吸は戻ったものの、意識は戻らず約2ヵ月後に亡くなりました」

過去には麻酔が原因で訴訟騒ぎも起きている。兵庫県の県立淡路医療センターで、全身麻酔による膝の手術を受けた30代男性が死亡。

術後、問いかけへの応答や自発呼吸を確認し、一般病室に移ったが、約1時間後に呼吸停止の状態で発見され、20日後、低酸素脳症で亡くなった。

遺族は「手術後の監視が不十分だった」として神戸地裁に提訴。県は遺族に3500万円を支払い和解した('14年)。県は事故後、全県立病院で行う麻酔について、モニターなどによる一定時間の監視を義務づけている。

 

そもそも、麻酔をかけられたとき、身体ではどんなことが起こっているのか。一般的に麻酔=眠っている状態だと思っている人もいるが、それは違う。全身麻酔の場合、自力呼吸ができなくなるので、人工呼吸器が必須となる。

麻酔は、手術という「外傷」によって身体にもたらされる苦痛を和らげる反面、痛みを感じる意識はもちろん、呼吸や反射的な動きを司る中枢神経(脳)の機能をはじめ、血液を送り出す心臓のポンプ作用、ホルモンの分泌など、生きていくために必要な身体のほとんどの機能が抑制される。

つまり麻酔とは、身体の機能を低下させ仮死状態にする「劇薬」であり、「死と隣り合わせの医療行為」なのだ。

基本的には、手術の前に麻酔科医が患者を診察し、麻酔の危険性や方法を説明し、各患者に適した麻酔薬の量などを判断する。だが、患者側は手術の不安で頭がいっぱいのため、麻酔に対しては十分理解しないまま同意書にサインしている人が多い。