3600万部漫画『キングダム』が「ビジネス書」に生まれ変わった理由

二度、モノを売る思考術
現代ビジネス編集部

漫画とビジネス書の境い目

同じく『キングダム』の愛読者で、今回のコピーライティングを担当した牧野氏も、漫画作品をビジネス書として売り出すことは、決して奇抜な発想ではないとして、こう続ける。

「今から18年前、『スラムダンク勝利学』という本が出版され、ベストセラーになりました。スラムダンクから勝負に勝つための心理学を学ぶ……というコンセプトの本で、漫画をビジネス書として読むという発想の転換を促した一冊だと思います。以来、『ONE PIECE』や『カイジ』などからビジネスに役立つスキルやマインドを学ぼうという解説本が発売されるなど、漫画をただの物語ではなく、ビジネス書として読もうという潮流は、少しずつ大きくなっている。

実際、現在活躍するビジネスパーソンの中には、「『キングダム』を愛読しているが、これはビジネス書として読むべき」と仰っている方もいます。

トップビジネスパーソンにもファンが多い。(株式会社CRAZY HPより)

だから、『キングダム』をビジネス書として捉えて、新しい読み方をしてもらおう、ということは、全く不自然ではない。その考えのもとに生まれたのが、『今、一番売れてる、ビジネス書。』というコピーだったんです。

コピーの真の価値は、そのコピーによってどれだけ大きな市場を新しく開拓できるか、にあると思っています。コピーというと、レトリックを活用して上手いことを言ったり、綺麗な言葉を考えるイメージがありますが、人が気づかない、その商品の本質的な価値を言葉で表現するのがコピーライターの仕事です。

最もシンプルな言葉でその目的が果たせるなら、ひねりを利かせる必要はない。『今、一番売れてるビジネス書』というのは、とてもシンプルですが、誰にでもわかる強い言葉。しかも、嘘ではない。

『キングダム』の価値を生活者に発見してもらい、新しく読者を開拓するには、正しいコピーだと思っています」

ひとつも手を抜けない

今回、牧野氏は1巻から30巻までの一冊一冊に、ビジネス書のタイトルのような「キャッチ」を付けた。これも、今回のキャンペーンの見どころのひとつだ。

©原泰久/集英社

もちろん、ただやみくもに付けたわけではない。主人公の信が表紙の一巻には、「言葉にすれば、夢は動き出す」、体の小さな河了貂が表紙の第四巻には「力がなくても戦える 弱者のサバイバル論」……といったように、表紙に登場するキャラクターをひと言で表すような「タイトル」を考え抜いたという。

 

「半分まではスムーズに思いついたのですが、30冊それぞれに違った『タイトル』をつけるのはなかなか大変でした(苦笑)。

それでも、一冊でも気の抜けたタイトルがあれば全体としての完成度が落ちてしまうし、なにより『キングダム』のファンの方々に『こいつは分かっていない』と思われかねない。この漫画を愛するいち読者だからこそ、ひとつも手を抜けませんでした」(牧野氏)

30冊すべてを並べると、その光景は壮観のひとこと。新規の読者だけでなく、既存のファンも、この『ビジネス版・キングダム』の表紙を買い揃えたくなるのではないだろうか。