「生前贈与」でなくとも、「遺言」で自宅を妻に譲る旨を示しておけば、同様に自宅の所有権を渡せる。
「生前贈与なら、贈与税の特例で2000万円まで非課税枠が使えます。一方、相続の場合は配偶者控除が1億6000万円まで適用できる。
自宅の価値が2000万円以下なら生前贈与は有効ですが、相続に比べて諸費用が高いため、一般的には『遺言』による妻への相続のほうがメリットは大きそうです」(曽根氏)
また、自宅を売却してしまうのも手である。
「配偶者亡きあとの生活を新たにしようと考えるのであれば、自宅に固執する必要はありません。家は評価が高いうちに売るのが一番。経済状況も加味して、相続のそのときを迎えたい」(曽根氏)
法律改正の施行時期のウラをかく手もある。正確な時期ははっきりしていないが、'19年7月までには、「生前贈与」を遺産分割から外せるようになる。
一方、「配偶者居住権」の設定は、その1年後('20年7月までに施行)とされる。'20年、東京オリンピックの時期に不動産価格がピークを迎え、その後下落基調をたどると考えれば、新制度のうち施行時期の早い「生前贈与」を先にしておけば、比較的価格が高いうちに売却できるかもしれない。配偶者居住権より得することになる。
もうひとつ、改正のポイントとして注目されるのが、相続人でない親族が、「特別の寄与」について金銭の支払いを請求できるようになったことだ。
これまでは、長男である夫がすでに亡くなっていた場合、残された妻が義理の父親にどれほど介護で尽くしても、相続人になれなかった。改正で、いくら得られるのか?
「改正前の判例では過去に数百万円の寄与料が認められたケースもあります。寄与料の算出は、たとえば、介護士の日当や時給などがベースとなる。
そのため介護に従事したという客観的な記録が求められることになるでしょう。介護の日数や、どのような介護を何時間したのか日々記録することが必要です」(曽根氏)
ただし、記録を残していたとしても、認められる例は極めて少数にとどまりそうだ。
なぜなら家族には扶養の義務もあるからだ。たとえば長男夫婦が親と同居し生計を一つにしている場合、妻が介護に専念したと主張しても、献身的な寄与がその扶養の義務を上回っていると判断されることは稀なのだという。
「認められやすいケースとしては、別居している義父を介護するために、仕事を辞めるなど経済的不利益を負ってまで介護せざるを得なかった人など。ですから安易に寄与料を主張すると、かえってトラブルを招くことになり、注意が必要です」(武内氏)
相続の現場の弊害や、「争続」で問題になったケースを参考に改正されたものも少なくない。
たとえば、亡くなった親の銀行口座の預金は凍結され、遺産分割協議が終了するまで、引き出すことができなかったが、「改正により、法定相続分の3分の1、あるいは法務省令で定める額まで引き出しが可能になります。少なくとも葬儀代に充てる100万円までなら引き出せるようになりそうです」(武内氏)