沖縄で猛威をふるう「中国人が攻めてくる」=中国脅威論を検証する

「臓器を抜かれた」「観光客が蜂起」…
安田 浩一 プロフィール

沖縄在住中国人の言い分

では、こうした中国脅威論を、沖縄に住んでいる当の中国人はどう思っているのか。

「はあ……なんと言ったらよいのか、脱力するしかありません」

そう答えるのは県内の中国系旅行会社に勤める陳さん(30歳)だ。会社では、中国人観光客のガイドを担当している。

那覇港に停泊中の中国人観光客が利用するクルーズ船
 

「沖縄のことが大好きな中国人は多いです。何より、大陸から近い。上海から90分で行くことができますからね。それに、中国では見ることのできない美しい海がある。団体旅行で沖縄を訪ねてその魅力にはまり、その後、個人旅行で再訪する人も急増しています。侵略? そんな目的を持っていたら旅行を楽しむことができません」

陳さんによれば、中国人観光客の「武装蜂起」など、誇大妄想もいいところだという。

「仮に武装蜂起して沖縄が中国になってしまったら、中国人は沖縄への興味をなくしてしまいますよ。いま沖縄に来ている中国人の多くは、中国の観光地なんて興味ないし。誰もそんなところに行きたくない。楽しくないよ、中国の沖縄なんて(笑)」

基地反対運動に興味を示す観光客も、ほとんど存在しないと断言する。

「遊びに来ているのに政治のこと考える人、いませんよね。真剣に反対運動している方々には申し訳ないのだけれど、中国人はむしろ、米軍基地に興味津々です。だって、そんなもの見たことないから。ですから、反対運動の現場に行きたいという人はいませんが、米軍基地がよく見える場所に連れて行ってくれという人は多いです」

そんなときに陳さんが中国人観光客を案内するのが、米軍嘉手納基地に隣接する「道の駅」だ。ここでは屋上の展望台から嘉手納基地の滑走路を一望することができる。

「離着陸する戦闘機を見ては、家族連れが『かっこいい』とはしゃいでいますね。反日とか反米とか、そんなこと口にする人はいません」

嘉手納道の駅

陳さんは四川省出身で、琉球大学に留学。住み心地がよいことから卒業後も沖縄に残り、旅行会社に就職した。このまま沖縄での生活を続けるために、日本へ帰化することも考えているという。

「ここは豊かな島ですよ。美しい観光資源は山ほどあるし、食べ物もおいしい。僕は政治のことはよくわからないけど、中国政府が沖縄を狙っているなどという話は聞いたこともない。そもそも僕はケンタッキー・フライド・チキンを食べて、米国映画を観て育った世代ですから、米国に対する反発もなければ、こうして沖縄に住んでいるのですから日本への反発もない。

沖縄に住んでいる中国人だろうが、観光客であろうが、望んでいるのは沖縄が平和であり続けることです。だから中国側も尖閣に対しては余計なことをして緊張を高めないでほしいと思っています。ここでビジネスしている中国人にとって、政治的な不安定が一番困るのですから」

おそらくはそうなのだろう。日中の政治的緊張で割を食うのは、いつだって互いの国に居住する人々だ。実際、陳さんもが務める旅行会社も、中国人観光客だけに依存するのは、何かが起こった場合(たとえば、沖縄で中国人観光客が被害を受けたりするような場合)のリスクを考慮して、南米やヨーロッパにもセールスをかけるようになったという。

それでも中国脅威論は、当の中国人を素通りして、いまだ猛威を緩めない。

少し前におこなわれた那覇市長選でも、県知事選に続いて、中国絡みのネガティブ攻撃が飛び出した。

「龍柱」をめぐる問題である。              

(後編に続く)

11月26日(月)19時30分より、本記事の著者・安田浩一氏とノンフィクションライターの石戸諭氏によるトークライブを開催します。詳しくは以下のリンク先をご覧ください。https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58129

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