沖縄で猛威をふるう「中国人が攻めてくる」=中国脅威論を検証する

「臓器を抜かれた」「観光客が蜂起」…
安田 浩一 プロフィール

地元大学生にも広がる「中国脅威論」

栄町市場の飲み屋街で知り合った地元の大学生(20歳)は、私にこう伝えた。

「『いずれ中国が本格的に沖縄に攻め込んでくる』という話は、僕の周囲では当たり前のように語られていますよ。基地反対運動の背後に中国人がいるという話も、少なくとも僕の友人のほとんどは信じているんじゃないかなあ」

 

まずいなあ、このままでは沖縄がデマで汚染されちゃうよ──沖縄で荒れ狂う中国脅威論に危機感を持ったのは、地元では「モバイルプリンス」の愛称で知られる島袋昂さん(31歳)だった。地域のFM局や学校などでネットリテラシーの啓発活動を続けている。

もともと政治には関心が薄いという島袋さんが、流布される中国脅威論を「ヤバイ」と思ったのは数年前だった。

「知事だった翁長さんの娘さんが中国高官の子どもと結婚した――といったうわさが広まりました。僕の周りでは、真顔で『だから翁長知事は親中なんだ』と話す人も少なくありませんでした。

ところが、翁長さんが即座にそれを否定。娘さんはそもそも中国に行ったこともないのだと断言しました。ですが、若者の多くは新聞も読まなければテレビのニュースも見ない。ネットのまとめサイトだけで世間を判断してしまうことが少なくありません」

中国軍が沖縄を攻撃・占領する漫画が描きこまれたパンフレット(幸福実現党が作成したもの)。この内容については11月掲載予定のYMR後編で詳しく取り上げる
 

このうわさは収束することなく、いまでも県内の一部で強く信じられているばかりか、いまだに「中国による沖縄侵略の理由」として取りざたされてもいる。

冷たい視線は、沖縄を訪れる中国人観光客にも向けられるようになった。

島袋さんの記憶に強く残ってるのは、1年前の出来事だ。

県内で「教育委員会からの情報」だとするネットの書き込みが広まった。路上で中国人が麻酔薬を染み込ませた海産物を押し売りし、それを食べて意識を失った人が続出、そのなかには臓器を抜き取られた人もいる――といった内容である。

事実であれば間違いなく警察も動いただろうし、報道されないほうがおかしい。しかし、報道されないのは地元新聞社が「中国に配慮したからだ」といった情報も、ほぼ同時期に出回った。

「あまりにもバカバカしいと当初は放置していたのですが、ぼくの周りでも信じる人が現れた。中国人に対する嫌悪や憎悪を口にする人もいた。こうしたウラのとれないフェイク・ニュースがネットに広がっていくことで、沖縄で中国人への偏見が広まっていく現実に恐怖を感じたんです。結局、この話も中国人観光客の武装蜂起といった話に発展していきます」

沖縄の主要産業は、なんといっても観光である。県の調査によると沖縄を訪れる外国人観光客は、年間269万人(17年度)。その多くが中国をはじめとするアジア各国からの観光客だ。

「憎悪や偏見が広がってしまえば、沖縄を好きになってくれるかもしれない観光客に、もしかしたら危害が加えられてしまう可能性だって否定できません」

実際、この記事の冒頭で紹介した団体は、街宣中にたまたま目の前を通りかかった中国人観光客を「出ていけ!」と怒鳴りながら執拗に追いかけまわしたこともある。

島袋さんは地元新聞社で連載しているコラムで「海産物」デマを否定し、さらにネットでも「デマ情報に踊らされないように」と繰り返し主張している。

「しかし、想像以上に中国脅威論は浸透しているかもしれない」

そう渋い表情を見せるのは沖縄国際大学教授(政治学)の佐藤学さんだ。

あるとき、学生の一人が訊ねてきた。

「先生、『中国人観光客が一斉に武装蜂起するかもしれない』とメールが回ってきたのですが、本当でしょうか」

佐藤さんは開いた口がふさがらなかったという。

「街中でゴミが落ちていれば中国人のせいだと言う学生もいる。中国人観光客など来ないような場所に落ちていたゴミですら中国人のせいにするのですから、相当に強い偏見がある。一部の学生は、沖縄の現在の貧困問題すらも、親中派の知事によって引き起こされたのだと信じている。

少し調べればわかるとおり、復帰後、沖縄では28年間、保守系の人物が知事を務めています。要するになんでもかんでも中国のせいにしておこうという回路が存在してしまっているようです」