スルガ銀行に地面師…いま、ヤバイ経済事件が次々表ざたになるワケ

『特捜投資家』作者が解説
永瀬 隼介 プロフィール

ウルトラC的金融取引

〈地上げの帝王〉”と呼ばれた男がいる。その全盛時、2000億のカネを動かす、と言われた早坂太吉である。

彼の世田谷区砧の大豪邸を訪ねたことがある。豪華な応接室に現れた早坂は金縁メガネをかけた、ちょいとやさぐれた感じの小柄な中年男。一見すると街の不動産屋のおっちゃん風で、とても〈帝王〉には見えない。

ところがこのおっちゃん、大きなアイボリーのソファにどっかと腰を下ろすや、競走馬のアルバムを一心にめくり始めた。こっちの質問は一切無視。目も合わさない。いったん質問から離れ、世間話を持ちかけても同じ。後にも先にも、あんな徹底した黙殺は一度きりである。

 

小一時間も経つとさすがに疲れてしまい、私はこう尋ねた。

「早坂さん、そんなに馬がお好きなんですか?」

彼は顔を上げ、にっと笑い、強烈なセリフを吐いた。

「人間と違って馬は裏切らねえからな」

聞けば百頭以上の高価なサラブレッドを所有し、一レースに数千万、賭けることもあるとか。地上げという血も涙もない修羅道をひた走り、目も眩む成功をつかみ取った怪物の、底無しの孤独を見る思いだった。

栄華を極めた帝王もバブル崩壊後、所有する会社が倒産。早坂自身も脳梗塞で倒れて脳死状態となり、五年後、七十歳で亡くなっている。

今回、『特捜投資家』を著した理由のひとつに、経済犯罪を書いてみたい、との思いがあった。私が過去、取材現場で見てきたカネに狂い、狂わされる人々である。

しかし、具体的な小説像はまったく浮かばず、雲をつかむ思いでせっせと取材を重ねたのだが、動いてみるものである。なんの前触れもなく新たな大悪党が現れた。日本経済史上最強のワルと呼ばれ、恐るべき悪の錬金術を生み出した男である。

彼は「法に触れることは一切やっていない」と豪語し、司法関係者が“司法テロ”と恐れおののいた前代未聞の手口で庶民の財産を根こそぎ奪い、莫大な富を築いた悪魔のような頭脳の持ち主である。

彼の登場で経済小説の核が生まれた。この司法テロの大悪党から着想を得た“モンスター”を中心に据えてみると、物語が俄然、動き始めた。孤高のモンスターの周囲で甘い汁を吸う悪党どもと、彼らが仕掛ける壮大な詐欺、それを暴くべく奮闘する崖っぷち四人組の活躍である。

『特捜投資家』のタイトルとストーリーは、不正企業を取り締まるべき捜査機関(地検特捜部、警察捜査二課)が現在、開店休業の状態にある中、ならば投資家を現代の“必殺仕置人”に仕立てたら面白いのでは、とのアイデアから生まれた。

投資家が不正企業を叩きのめす手法の詳細は本作に譲るが、ウルトラCとも呼ぶべき金融取引である。