スルガ銀行に地面師…いま、ヤバイ経済事件が次々表ざたになるワケ

『特捜投資家』作者が解説

犯罪ノンフィクションや事件小説を数多く著してきた、元週刊誌記者の永瀬隼介氏が最新作『特捜投資家』で描いたのは、アベノミクスによるバブルの「歪み」だ。

バブルの波に乗り、壮大な計画をぶち上げて多くのカネを集めるとあるベンチャー経営者と、その闇を暴こうとする「特捜投資家」たちの奮闘が描かれた経済小説だ。

永瀬氏は、現実の経済事件に本作の着想を得たというが、バブルの終焉が見えてきたいま、これまで潜伏中だった「詐欺事件」「経済事件」がいくつも噴出するだろうと予測する。

三億円事件のナゾ

私がこれまで書いてきた小説は犯罪物、警察物がほとんどで、ノンフィクションも事件物がメイン。金融はド素人である。

それがこのたび、初めての経済小説『特捜投資家』(ダイヤモンド社)を上梓したものだから、知人からは「いったいどうしたの」「商売替えか」「カネの話は向かないと思う。カネ儲け、縁がないし」と心配?する声が多々よせられた。

しかし、世の犯罪・事件にカネはつきもの。私自身、週刊誌記者として禄を食んだ時期もあり、カネ絡みの事件はかなり見聞きしてきたとの自負がある。

たとえば、この十二月で半世紀を迎える伝説の未解決事件がある。最近、真犯人を名乗る人物による手記発表でも話題になった『三億円事件』である。私はこの手記を純然たる創作だと思っている。もっとも、書籍化を前提としたプロモーション活動なら大成功かもしれないが。

 

ともかく、〈西の『グリ森』東の『三億円』〉と称される、昭和を代表するこの大事件はいまでも多くの謎が残る。

昭和43年年12月10日、午前9時21分、バケツを引っ繰り返したような豪雨のなか、東京都府中市の府中刑務所前路上で銀行の現金輸送車が偽白バイによって停車を命じられ、ジュラルミンケースの現金約三億円(東芝府中工場従業員のボーナス)ごと奪われた。現在の貨幣価値で約三十億円。僅か三分の早業である。

私はこの“昭和最大のミステリー”をモデルに犯罪小説『閃光』を書き、誤認逮捕された男性と家族の悲劇をノンフィクション『疑惑の真相「昭和」8大事件を追う』に収めた。

当時の捜査員複数を取材したが、彼らは異口同音に「少年Sが犯人」と断言している。少年Sとは事件当時19歳で、立川市周辺で遊んでいた不良グループのリーダー。父親は白バイ隊員である。この少年Sは捜査線上に浮上したものの、事件から五日後の夜、自宅で死亡。父親が所持していた青酸カリを使い、服毒自殺したことになっている。

最有力容疑者、少年Sの没後も捜査は複数犯説を元に進められたが、事件発生から四カ月後、捜査本部に投入された昭和の名刑事、平塚八兵衛が単独犯説を主張。少年Sをシロと断定し、事件は迷宮入りしてしまう。私は捜査員の一人からこんな証言を得ている。

「どうにも納得できないから、捜査幹部に“Sの両親を引っ張って徹底して話を訊きましょう”と直訴したんですよ。すると幹部は“きさま、日本警察をぶっ潰す気が、全国警察官23万人を路頭に迷わせる気なのか”と激怒してね。私はSが真犯人と信じています」

捜査をミスリードした、と囁かれる平塚だが、彼は世の称賛を一身に集めるような伝説の名刑事ではない。その真骨頂は“鉄拳”である。クロと睨んだ被疑者には容赦なく拳を振るい、取調室の壁に大量の鮮血が散ることもあった。

三億円事件の捜査の過程では、誤認逮捕というとんでもない大失態も犯している。

移動用のクルマを複数台用意するなど、周到に仕組まれた現金強奪事件に単独犯はあり得ない。なのに、それを主張してしまう病的な思い込みもあった。三億円事件の迷宮入りは平塚八兵衛投入で決定づけられた、と言っても過言ではない。

4300億円を溶かした事件

バブル経済時代(1980年代後半から90年代初頭まで)の事件は桁外れのカネが飛び交った。たとえば〈大阪北浜の天才相場師〉と謳われた料亭の女将、尾上縫。庭園のガマガエルの石像を恭しく拝み、「お告げがきたーっ」と高騰する株の銘柄を連呼し、それがまたよく的中すると評判になり(バブル期、大半の株式銘柄は高騰していた)、銀行や証券の幹部が揉み手をして日参。巨額のカネが動いていると噂された。

私は深夜、ある大銀行大阪支店長の豪勢な社宅前で、主の帰りを待った。運転手付きの黒塗り高級車で帰宅した支店長は、週刊誌記者の名刺を受取るなり、ほろ酔いの赤ら顔をゆがめ「こんな夜遅くに無礼だっ、失せろ」怒鳴りつけ、「この野郎っ」とヤクザのように凄み、トランクのゴルフバッグからアイアンを抜き出して来た。

騒ぎを聞きつけ、邸宅から飛び出してきた奥さんが、あなたやめてっ、落ち着いて、と金切り声を上げてしがみつき、運転手も加わり、大騒動になってしまった。

しかし、私が噂の真偽を問い質すと一転、支店長は絶句し、顔面蒼白に。我々の取材チームは、大阪支店が尾上縫に融資したカネは約六百億円、との情報を入手しており、こんなメチャクチャな話が本当にあるのか? と半信半疑のまま当該責任者にぶつけたのだが、なんと事実だったのである。

結局、バブルが弾けて尾上縫は破産。4300億もの負債が泡と消えた。料亭の女将も、大銀行・大証券のエリートたちも、バブルで膨らむカネの魔力に正常な判断力が麻痺していたのだろう。