孫正義も大ヤケドの可能性…カショギ氏殺害にちらつく「影」の正体

インテリジェンス「超応用問題」を解く
佐藤 優 プロフィール

大使館に必ずある「特別室」

佐藤:そのうえで、今回の事件の特徴を説明しましょう。私は昔、モスクワの日本大使館にいたんですが、一般に大使館には「特別室」という部屋があります。

壁のあるところに取っ手がついていて、扉になっている。それを開けると、巨大なアクリルでできた箱みたいな部屋につながっています。その部屋は電磁的に完全に遮断されていて、雑音テープを流して盗聴もできないようにしているんです。

邦丸: 諸外国の大使館にも、そんな部屋があるわけですか。

佐藤: 外交の世界では盗聴されているのが当たり前だから、盗聴の心配がない、あるいは電磁的に遮蔽された会議室を必ず持っているんです。サウジアラビアにはおカネがありますから、イスタンブールの総領事館にも絶対にそういう部屋がある、と考えるのが普通です。

その総領事館の中で人を殺す。普通、盗聴の心配がある場所でやりますか?

邦丸: ですよね。

 

佐藤: しかも報道によれば、「総領事の執務室に法医学者が入ってきて、体を切断するときに『こんなときは音楽を聴くに限る』と言っていた」ということですが、この報道が捏造でないとすると、現場の録音があると考えるのが普通ですよね。どうやって録音したか、ということですよ。

いちばんの可能性としては、普通の部屋で殺しをやった。とすると、サウジアラビア政府はそうとう間抜けだということになりますよね。捕まえてください、と言っているようなものです。そうかもしれない。しかし、蓋然性は低いと思う。

ならば、特別室の中で殺した。でも、盗聴防止装置が付いていて、電磁的にも遮蔽されている部屋の情報をどうやって取るのか。

邦丸: 報道では、カショギさんがアップルウォッチを付けていたので、婚約者のiPhoneへアップルウォッチから音声を送っていたんじゃないか、という説も出ています。

佐藤: でも、もし遮蔽のある特別室に入っていたら、電波が飛びません。婚約者のiPhoneに録音データが送られていたのが事実だとすれば、何か強力な電波を発信する特殊な装置がカショギ氏のアップルウォッチに付いていた可能性があります。あるいは特別室の中に、電磁的遮蔽をかいくぐれるような何らかの装置が仕掛けられていた可能性も考えられます。

しかし、そういった能力はトルコの秘密警察にはないはずです。これが可能なのはアメリカのNSA(国家安全保障局)とCIA(中央情報局)、そしてイスラエルのモサドだけだと私は見ています。

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邦丸: 世界で3つだけ。

佐藤: その3機関にしか不可能です。何か特殊な装置が関係していたとしても、そうした装置も、やはりこれらの情報機関にしか作れない。

つまり、この事件には何らかの形で、こうした機関が関与していると見るのが正しいでしょう。カショギさんは、もしかしたら拉致されるかもしれないと考えていて――殺されることまでは想定していなかったかもしれないけれど――その場合に備えて、自分の居場所がわかるように、そういう装置を付けていた可能性がある。