Photo by iStock

全国民唖然…経団連会長「初めてメール問題」で本当に心配なこと

「深すぎる断絶」の象徴かもしれない

確かに時代錯誤、だが…

経団連(日本経済団体連合会)の中西宏明会長が今年5月、経団連会館23階の会長執務室にパソコンを持ち込み、職員にメールで仕事の進捗を聞くようになった――という読売新聞の記事が、物議を醸している。なんでも、会長執務室にパソコンが置かれたのはこれが初めてだそうで、これまでは「紙でやり取りしてきた」という職員の談話もある。

「とても2018年の話とは思えない」「これが日本の『失われた20年』の原因か…」などなど、呆れ果てた人々のSNSでのコメントには、まあ頷ける。

もっとも中西氏自身は、おそらくこれまでの経団連会長と比べても、そして他の企業のトップたちと比べても、ITリテラシーの点で突出した人物であることは間違いない。東大工学部から日立製作所に入社した後、米スタンフォード大学大学院でコンピュータエンジニアリング学修士課程修了という、バリバリのエンジニアなのだ。

氏のキャリアは一貫してコンピュータと情報通信にかかわるもので、経営の意思決定に携わるようになってからは、日立ソフトや日立情報システムズなどのITサービス系子会社の再編や上場廃止を決断し、社内ITシステムの改革を目指す「Smart Transformation Project」も推進してきた。また、この6月末まで経産省所管の情報処理推進機構(IPA)産業サイバーセキュリティセンターのセンター長も務めていた。

現在72歳の中西氏は、パソコンやメールを「使い始めた世代」どころか、その基盤形成に参画した古参エンジニアである。過去の経団連会長はいざ知らず、氏が「仕事にITは不可欠だ」という感覚を持っているのは確かだろう。

 

国のトップも似たようなもの

これは一般論だが、経団連会長ほどでなくとも、人間ある程度偉くなると、まわりのスタッフがあれこれお膳立てをするようになる。

ある大手メーカーの品質管理部長だった筆者の知り合いは、退職して初めて自分で新幹線の指定席切符を取り、ホテルの予約を入れることになった。しかし、どうすればいいのか分からず、同行人の手助けを借りたという。乗り合いバスに乗るのも何十年ぶりだし、電話の出方すら忘れている始末。

周囲からすれば、いくらサラリーマン時代に偉かろうが、ただの迷惑な人だ。部長職でさえこうなのだから、大企業の経営トップの「浮世離れ」は推して知るべし。

浮世離れという点では、政治家も負けていない。事務作業や外部との応対は秘書がやってくれる。自分で電話をかけたり文書を作ったり、メールを出すこともない。TwitterもfacebookもInstagramもスタッフがアップする。当人はお神輿に乗った「お殿さま」「お姫さま」なので、不祥事が起きると「秘書が…」ということになる。

かわいそうなのは、そういう国会議員が大臣、副大臣、政務官として赴任してきた中央府省の官僚たちの対応ぶりである。

「電子政府」の建前を大々的に掲げている以上、霞が関ではペーパーレスが推奨されていて、会議の資料もPDFやODFなどの電子文書で配信・共有されることが少なくない。ところが、大臣や政務官はパソコンもネットも使えず、秘書室でプリントアウトして渡す。「ペーパーレス化で仕事も紙も増えた」という笑えない笑い話だ。

逆のケースもある。当該施策にかかわる新聞や雑誌の記事を秘書室が集めて切り取り、スキャナで電子化して大臣や政務官に配る。彼らが選挙の応援やお国入りで不在の場合は、議員事務所のスタッフが現地でプリントアウトして手渡す…。

中央府省の「ペーパーレス」の実態は、依然として紙に軸足を置いた「擬似ペーパーレス」だと官僚たちは言う。これは国会議員の、ひいてはこの国の意思決定にかかわる人々のITリテラシーが、1990年代のレベルから大きく前進していないことを示しているのかもしれない。