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# 証券

「あえてお客を勧誘しない!」松井証券社長の経営哲学

大塚英樹の「成功するトップの覚悟」③
ジャーナリストの大塚英樹氏は、近著『確信と覚悟の経営ーー社長の成功戦略を解明する』で、16人の日本を代表する企業トップにその「確信」と「覚悟」を聞いた。
優秀な業績を上げている経営者に共通するのは、自社を客観的に眺め、改革しなければならない不合理な点をよく見出せていることだ。松井社長は、畑違いの日本郵船から転身して、改革を進めた。
第3回は、松井証券の松井道夫社長に迫る。

証券会社の屋台骨「営業セールス」の廃止

幸せな成功者に共通するのは、あきらめない人、挫けない人であることだ。立ちふさがる障害が何であろうと、成功するまであきらめない。挫けないで、やり続けることができるかどうか。これが成功と失敗の分かれ目となる。

成功者の多くは、忍耐の美徳ほど素晴らしいものはないことを体感している。  

松井道夫も、挫けない人である。どんな批判や咎めも逃げずに正面から堂々と受け止めてきた。そして、自分の信じる道を歩み続けてきた。

松井が自社の生き残りに執念を見せてきたエピソードは枚挙に暇がない。

撮影:中村介架

営業セールスの廃止、支店閉鎖、コールセンターによる通信取引開始、日本初のインターネット株取引開始……いずれのときも社内の強い反発を受け、多くの社員が去っていった。

また、株式保護預かり手数料の無料化、店頭株式委託手数料の半額化、手数料自由化に伴う1日の定額制手数料体系「ボックスレート」導入などの折には、証券業界から強い非難を浴びた。

 

その都度、松井は心が折れ、落ち込んだが、やがて立ち直り、社内には進むべき道を示し、業界に対しては反旗を翻すような強い気持ちで、慣習を破り、新たな競争に挑んだ。まさに〝七転八倒〟だ。

松井経営の原点は、証券会社の屋台骨である「営業セールス」の廃止であった。

当時、営業は大半が歩合外務員だった。彼らは客からいかに手数料を取るかしか考えていない。会社への帰属意識も薄く、売り方もバラバラ。証券取引が自由化されたら、今のビジネスは成り立たないと確信していた。

当時、社員の多くは、ある年齢になると歩合外務員になっていた。営業収入の70%は外務員に依存し、社員は彼らの単なる支援部隊に成り下がっていた。そこで松井はまず、社員から歩合外務員への転身を認めないと宣言する。