全国3000ヵ所の「砂」を調査! 元素で見た日本列島の姿

震災前の自然放射線量も一目でわかる
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

さらに精度の高い化学図へ

ところで、5年ごとのプロジェクトは、その後どうなったのか。

「全国の陸と海を完成させたので、もう一度関東を細かくやりました。全国図の時は10キロ四方でしたが、それを3キロ四方のメッシュマップに、つまり面積比で10倍精度を高めた『関東の地球化学図』を2015年に完成させました。今回は1500~1600ヵ所の陸上調査と、東京湾の海底29ヵ所から採取した1メートルぐらいのコアの再解析を行いました」(岡井さん)

東京湾となると、そこに流れ込む河川の汚染が明確に出てくる。

「多摩川はわりときれいなんですが、荒川や江戸川はやはり1960年代~70年代にかけての工業地帯だったり、金属精錬時の廃棄物による埋め立ての影響で重金属が高くなっているようにみえます」(今井さん)

【写真】東京湾の銅の化学図の写真
  東京湾の銅の化学図

このコアには、東京湾が一番汚染された時代の記憶が残っている。一番ひどい時代に比べれば、今は改善してきているのがこの調査でもわかってきた。

また、北部には足尾銅山や旧日立鉱山の周辺で、銅や鉛、亜鉛が高濃度になっているのも見られる。

ただ、この環境汚染を告発するのが化学地図の目的ではない。客観的な化学データを提示することがこのプロジェクトの役割だ。

「このデータから、また別の専門家が分析を行ってくれればいいと思っています。我々はそのバックグラウンドとなる基礎データを高密度にとってくるのが目的です。だから環境問題に特化しているのではなく、社会基盤のデータをとるのが仕事だと思っています」(岡井さん)

関東に続いて、今現場で調査しているのは、名古屋周辺だという。

これだけ詳しく全国を調査していると、時には思いがけない問い合わせが入ってくるという。

「例えば靴の底に付いた泥が、どこの泥かを調べるのに使えませんか、と質問されたことがありましたね。そこまではちょっと……わかりませんが。でも、お米の産地を確認する補足データには使われています」(太田さん)

また、この化学データは、産業技術総合研究所のホームページですべて公開されている。産業技術総合研究所のホームページにある「地球化学図」を見ると、53の元素が日本列島にどのように分布しているか、自然放射線はどこが高いのかが一目瞭然でわかる。

ユニークなのは、採取場所の川の砂まで一様に掲載されているところだ。インスタ映えはしないかもしれないが、これだけの川砂を集めても、それぞれに個性が出てまるで絵画のように見える。

試料写真の例
  掲載されている試料写真の例。写真の他に、採取地点の緯度・経度や、元素濃度、自然放射線量などの情報が見られる

小惑星リュウグウの土を採取するために飛行する「はやぶさ2」のように、地球の外まで土を採取しに出かける時代だが、我々の足元にも重要な情報は集積しているのだ。

プロフィール  

岡井 貴司(おかい たかし)(写真:左)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 地球化学研究グループ 研究グループ長

太田 充恒(おおた あつゆき)(写真:右)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 地球化学研究グループ 上級主任研究員

今井 登(いまい のぼる)(写真:中央)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質情報研究部門 地球化学研究グループ

私たちは地球の表層部分での、様々な元素の濃度分布やその移動過程の解明及び元素を正確に分析する技術の研究開発を行っています。地球表面の元素濃度を把握し元素が移動・濃集する過程の解明の基礎となる「地球化学図」の作成や岩石・鉱石・土壌・堆積物といった地質試料中の元素を正確に分析するために必要な「地球化学標準物質」を作製するとともに、これらに関する情報をデータベース化して提供しています。

取材協力: