全国3000ヵ所の「砂」を調査! 元素で見た日本列島の姿

震災前の自然放射線量も一目でわかる
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

陸の次は海だ!

苦労の末に完成した「日本の地球化学図」は、2004年に発表。大きな反響があった。勝因は、全国を一覧できることだった。

「誰も見たことがない地図だったので、一様に驚かれました。特に自治体や工場立地を考えている会社から、そこにどのような自然汚染があるのか、みんな知りたがったのです」(今井さん)

2005年には、小池百合子大臣の時代に環境賞を受賞している。

全国プロジェクトの成功に勢いづいたメンバーは「次は海」だと考えた。川に流された砂のその先には海がある。沿海の堆積物を調べようと考えたのだ。

しかし、浅瀬とはいえ海底の砂を採取するにはちょこっと行って掬ってくるとはいかない。そこで目を付けたのが、同じ旧地質調査所の組織の中で海洋調査を行うグループだ。20~30年かけて行った海洋調査で採取した砂が同じ研究所の中にあった。

「普通では手に入らないような海に堆積した砂が5000ヵ所分、倉庫に眠っていました。これは使わない手はないでしょう」

今井さんが嬉しそうに語る。サンプルが欠けていた瀬戸内海などの浅瀬を独自調査で付け加え、陸上3000ヵ所、沿海5000ヵ所のデータをそろえて「海と陸の地球化学図」が完成したのが2010年だ。

【写真】海と陸の地球科学図の写真
  海と陸の地球科学図。https://gbank.gsj.jp/geochemmap/

震災前の基準となった自然放射線全国地図

約5年ごとのプロジェクトを形にしていた頃、東日本大震災が起こる。さらに福島第一原子力発電所の事故が続き、日本中で放射能汚染の不安が広がった。一般人までガイガーカウンターを持って身近な場所を測っていた。

そんな中、文科省が行った空中調査の放射能数値が話題に上った。なぜか新潟県の数値が高く、それによって風評被害が広がる恐れがあった。

ところがこの数値、もともと高い場所だということがわかる。

「大地からくる放射線は、主にウランとトリウムとカリウムの3つの元素でほぼ決まるのです。我々が行ってきた化学調査で、3元素の濃度からその土地の自然界における放射線量は計算していました」(今井さん)

【写真】日本の自然放射線量図の写真
  日本の自然放射線量

実際に、2004年時点でこの放射線全国地図はできあがっていて、関係者の目に触れていた。それが公表され、新潟県に高い数字が出る理由が分かったのだ。福島第一原子力発電所の影響ではなく、自然界の放射線量が計測されただけだった。

「自然界の放射線量は、人体に直接影響を与えるほどの数値ではありません。でもあの当時は、みなさんがセンシティブになっていて、ちょっとでも高いと大騒ぎになったものです。世界から比べると、日本の自然界の放射能は高くはありません。我々が出したデータには普遍性があります。化学分析値から計算している数値ですから事故前も事故後も変わりなく、標準値となっているのです」(今井さん)

これが基準というものの重要性だろう。何か変化が起こる前に、基準を知っておくことが大切だ。そのために、3000ヵ所もの「砂」を集めては、そこにどんな元素があるのか地道に調べている人達がいるのだ。