全国3000ヵ所の「砂」を調査! 元素で見た日本列島の姿

震災前の自然放射線量も一目でわかる
中川 隆夫, ブルーバックス編集部

どうやって10キロメッシュの地図を作るのか

ところで、この調査は具体的にどうやるのか。まさか10キロ四方の中央点の土壌を集めていくというのか。

「川の砂を集めていきます。昔からやってきた鉱床調査の手法と同じなんです。雨によって削られた岩が川へと流れて堆積する。それを採取すると、上流全体の情報が何らかの形で入ってくるという考え方です」(今井さん)

なるほど。合理的な方法だ。特に日本のように雨が多く河川堆積物で平野ができあがっている土地にはうってつけだ。イギリスも同じ手法だが、ノルウェーなどでは氷河堆積物を集めることもあるという。

具体的な方法を太田さんが解説してくれた。

【写真】太田さん
  太田さん

「川のある地点で採った砂には、上流全体の情報が含まれています。ですから、均等な間隔で10キロメッシュの1点というより、流域の面積が10キロメッシュになりそうな場所を狙います。そうすると1つの試料を採るだけで川上の広い面積の情報を集めることができます。そこからさらに支流に調査点を広げていくと密度の細かいデータになります。つまり試料を採る場所を工夫することで全体の解像度を調整できます」

【図】試料採取の方法
  1つの試料を採るだけで川上の広い面積の情報を集めることが出来るが、さらに支流に調査点を広げていくことで密度の細かいデータになる。拡大画像表示はこちら

研究者自らスコップを持って日本全国の川へ

川の中に入っていって、スコップで砂をザクッと掬(すく)うこともあれば、河原の砂を採取することもある。都会の川になると、橋の上から採取用の機材を使って泥のような砂を掬い取ることもあるという。

「現場ではザクッとした砂を1~2キロぐらい袋に入れて、持ち帰ってからふるいにかけて一定の大きさ、だいたい0.1ミリより細かい砂を選んで分析にかけます」

昔は、現地でふるいにかけていたが、効率が悪いので、とりあえず研究所に送ることにしたという。

「なにしろ昔は、レンタカーを運転して、ポイントを移動する時間が貴重でした。日数をかければそれだけ予算がかかるので、いかにたくさん回るかが重要でしたから」(岡井さん)

現地からは、宅急便で砂を送る。それが一番早い。

「飛行機で持ち帰ったこともありますが、まず手荷物検査で引っかかります。X線装置で真っ黒に映っているので、『なんですかコレ?』と聞かれますよ。まあ、砂としか答えようがないんですが(笑)」(今井さん)

【写真】スコップを持つ今井さん
  砂を採取する際に使ったスコップ

持ち帰った砂は、どうするのでしょう。

「砂を酸で溶かして、水のような溶液にして分析装置にかけます。水銀の場合は少し違いますが、他の元素は同じように溶液化して、含まれている元素を調べていきます。この分析装置もかなり高いものなんですが(笑)。でも全国図を作る頃にはこの分析装置が完成していたので、かなり効率的にできました。その分、予算は装置に割かれて、全国を飛び回るのは人海戦術で乗り切ったというところです」(岡井さん)

【写真】水溶液を持つ太田さん
  太田さんがもっている液体が砂を酸で溶かした水溶液

「地図の作図にもコンピュータ・ソフトを使っていて、1990年代前半ぐらいまではたいへんでした。作図に時間はかかるし、できあがったものを見るとモザイクにしか見えないぐらい粗かったんです」(今井さん)

地道な採取と、装置の進歩がこの化学図を作り出したのだ。