画/おおさわゆう

「延髄蹴り」は正確な医学用語でいえば間違いだった

覆面ドクターのないしょ話 第37回
ストレスが溜まると頬の筋肉がぴくぴく痙攣することがある。そんなとき、「顔面神経痛がきちゃったな」なんてつぶやいている。次郎先生によれば、この用語の使い方は、医学的にはNG。他にも、意味を誤解している医学用語は多いようです。
 

「ひび」と「骨折」はどう違うのか?

外来通院している常連のおばあちゃんとの、つい先日の会話です。

「腰痛の薬、またちょうだい」
「お薬の名前、わかりますか?」
「カコナール」
「はい、じゃ、いつもの1本ね」

いやいや違う! おばあちゃんは薬の名前を間違って覚えている。おばあちゃんが本当に欲しい薬は「カロナール」という消炎鎮痛剤なのである。

一方、「カコナール」は読者の皆様も御存知の通り、「ひきはじめのかぜに」というキャッチ・フレーズで有名な、飲む液体のお薬である。第一三共製薬の説明によれば、「葛根湯で風邪治る」という思いをこめて命名されたという。薬剤師の指導を要するれっきとした「第二類医薬品」ではあるが、OTC医薬品(市販薬・大衆薬)としてコンビニでも買うことができて重宝する。

上の例は、誤解というよりは勘違いというもので、高齢者にはよくあることだ。高齢者の言わんとすることはわかっても、誤薬投与を防ぐために、薬の名前はお薬手帳などできちんと確認しておく必要がある。

別のおばあちゃんは問診表にこんなことを書いた。

「前の病院で出されたアロンアルファを飲んだら、気持ち悪くなった」

「アロンアルファ」とは誰もが知っているあの瞬間接着剤だ。あれが病院で処方されるはずはないのだが、まさか本当に飲んでしまったのでは?と思い、ゾッとした。のどの粘膜が瞬間的にくっつき、窒息して強い呼吸困難を生じていたらどうしよう? もしや、この問診表はダイイング・メッセージなのでは? サスペンス・ドラマの帝王・船越英一郎さん、すぐに来て! いや、その前に救急車!

……だが、予想通り、その心配は杞憂に終わった。お薬手帳を見てみたら「アルファロール」という骨粗鬆症の治療薬が処方されていた。

高齢者が間違いやすい薬は他にもあって、「モーラス(湿布)」と「ラモス(瑠偉?)」、「アレンドロン酸(骨粗鬆症薬)」と「アラン・ドロン(フランスの俳優)」などがある。

以上は単なる勘違いだが、これからは皆様が誤解しがちな医学用語についてお話ししたい。まずは身近な外傷から。

多くの患者さんたちが次のように言う。

「他の病院で、骨折じゃなくて『ひび』って言われました」

「ひび」と「骨折」はどう違うのか?

実は「ひび」も骨折なのである! この病院の医者も「骨折ではない」とは言っていないはずだ。

骨折の結果、骨が正常な位置からずれてしまう状態を「転位」という。この転位のない骨折のうち、ごく軽度の状態が「ひび」である。

「この程度の骨折ならば、手術も入院も必要ありませんよ」

と、医者が患者さんを安心させるために

「これは『ひび』ですね」

というのである。

「ひび」は医学用語ではなく、あえて病名をつけるとしたら「亀裂骨折」であろうか?