休日は家族に嘘つきマンガ喫茶へ…壊れた自衛隊エリートの不安と苦悩

日本が保持する「戦力」の最大タブー
石井 暁 プロフィール

そうした訓練を重ねていくにつれ、上記OBはやがて「喜怒哀楽など、すべての感情を自分でコントロールできるようになってしまった」と嘆き、深いため息をついた。

別のOBは「心理戦防護課程以降、妻子に対しても、心の中で壁をつくってしまう」と告白。遠くを見つめながら「絶対に素の自分は表に出せない。それがストレスで、休日は家族に嘘を言ってマンガ喫茶に行って、一人でぼんやりしている」とつぶやいた。

さらに別のOBは「心理戦防護課程に入れられてから、親友が一人もいなくなった。陸上自衛隊に人生を変えられてしまった」と怒りをあらわにする一方、「どんな時でも、自然な笑顔をつくれる。人間として寂しい」「本来とは違う自分をいかにつくるか。そして、それを相手にどう信じ込ませるか、ということを常に考え、実践してきた」と諦観の境地に達しているかのようなOBもいた。

取材に応じてくれたOBたちによると、心理戦防護課程の教育を受けた人には次の3タイプがあるという。 

 ① 洗脳される
 ② 何も感じなくなる
 ③ 自らが壊れてしまう

 

金銭感覚は完全に麻痺

先ほども述べたように、心理戦防護課程で最優秀の成績を修めた〝エリート〟だけが、(本人の希望などとは無関係に)非公然秘密情報部隊「別班」に配属される。

別班本部は東京・市ヶ谷の防衛省内にあるが、班員たちは、新宿、池袋、渋谷などにビルの一室を借りてそこをアジトにして、情報収集活動を展開する。

情報提供者への謝礼など、別班の資金は極めて潤沢。領収書は一切不要で、一人年間数百万円。資金が余ると自分たちの飲み食いや風俗遊びにも使っている。完全に金銭感覚が麻痺してしまっているが、「カネを使わないと『仕事をしていない』と上官に思われてしまう」からだ。

任務は、合法、非合法問わず過酷そのもので、情報収集の方法については、

「自分は必要な相手からは100パーセント情報を取れるテクニックを使っていた」「別班員は違法なことを含めて、人を騙して情報を取る」

などとさまざまな一方、

こんな違法な仕事はできない」と吐き捨てて辞めていく班員もいたという。

要するに「別班生活は、精神的にやられるか、どっぷりはまるかのどちらか」(別班の一人)だが、それを陸上自衛隊が、かつては普通の隊員だった若者たちに強いている。

「別班時代、自分に何かあったら、家族はどうなるか常に心配だった」
「防衛相が『過去も現在も別班など存在しない』と言った時はショックだった」
何かあればトカゲのしっぽ切りだろう。私は何で別班の仕事をしてきたか分からない」

などと、不安や不信感を私に明かすOBもおり、現在の別班の姿について批判的な声も多かった。

「国は別班の存在を認めて、海外でも堂々と活動できるような体制をつくるべきだ。今、別班がやっている活動は茶番だ」
「別班の存在を国が認めなければ、ろくでもない情報しか取れない」

そしてあるOBは私にこう訴えかけた。

別班の組織の全貌を明るみに出して潰してほしい。そして、国は正式に認めた正しい組織をつくってほしい」

心理戦防護課程の邪悪な、そして非人間的な〝教育〟。別班の文民統制を逸脱した、非合法な任務……取材の過程で聞いた元班員たちの生の声が、私の胸に深く突き刺さった。